ワインセレクション成功の鍵を握っている男
ANA商品戦略部・主席・室園 幸志
大橋洋司元ANA社長が掲げた言葉がある、
“2000年はまず、アジアのナンバーワンを目指す“
その、熱い心が社員たちに響いていたのだろう、その後のANA戦略はすさまじいものだった、コスト削減と同時に、効率化を実現。
大型機導入、世界のマーケットの開拓、そして、社内からの声を拾い上げていく、あらゆる状況に瀕しても負けないネットワークを築いていくことだ。
その狙いの一つが、商品戦略部にある。
商品戦略部は2008年、当時の山元社長が設立を決断して出来たセクションだ。
ANAが提供するサービスに関わる、あらゆる分野での戦略を立て、実行していく攻撃的なセクションだ。
航空会社がなぜ、挑むようなセクションを作ったのか、
それは、勿論・大橋洋司元ANA社長が掲げた、経営ビジョンにある。
「品質で一番」「顧客満足で一番」「企業の価値創造で一番」
その三つが、脈々と現在のANAの心臓に流れている。

いま、商品戦略部に一人の男がいる。
ワインセレクションを仕掛けて男だ。
ANACS&プロダクト・サービス商品戦略部・主席・室園 幸志だ。
当初から、ワインセレクションに関わってきている一人だ。
現在、国際線機内サービス全体を総括し、ワインセレクションの責任者として携わっている。
彼にワインセレクションに至るさまざまな、問題点などを聞いてみた。
まず、商品戦略部という部署について問うた、
「似たような部署は他社にあるかもしれないですが、戦略性を意識した部署としては多分、他社にはないかもしれませんね」
「戦略部は、2008年に出来たのですが、まず、お客様視点で、一貫性を持ち、当然、ANAらしさの追求と、同時に、お客様が機内での時間と空間の価値を高められるよう、そうした観点からスタートしました
空間価値・・・この言葉の裏には当方もない深い意味が隠されている。
「空間価値の向上策の一つとして、着目したのがANAらしい機内ワインの提供でした。国際線就航時から世界のワインを選別して、お客様に提供してまいりました。しかし、2003年にゲストたちのお言葉をお借りして、世界に散らばっている素晴らしいワインを機内で提供しようということから、ワインセレクションという名称で始まったのです」
なるほど、では、現在のやり方、ワイン専門家を中心としたプロジェクト(ワインセレクション)は誰がお考えになったのですか、
「別に誰から言ったということではなく、自然にこうした姿になったんでしょうね、しかし、大きなキッカケになったのは、やはり、社内のアンケートや、お客様たちの生の声がそうした動きを速めたといってもいいでしょう」
「2003年ごろから、始めたワイン選定も、現在の形にしたのが2008年に、ワインセレクションとしてのスタートを切った時からです。しかし、この形も毎年少しずつ変化してきています、やはり世界のワインのトレンドや、時代の流れでしょうね」
グローバルな対応するためには世界の情勢をいち早くキャッチすべきだと強く話す室園幸志の情熱は熱い。
彼のANAに対する愛情がそうさせているのか、更に言葉は続く。

「僕は五感を信じます、五感で感じるサービスを機内でプロディースしたいですね、ワインをただ飲むだけでなく五感を感じながら飲むワイン、どうしたらその楽しさを作れるだろうか、悩んでいます
ほとばしる彼の声は熱を帯びる。
「いま、ANAオリジナルワインを考えているんですよ、」
「ANAワインが世界駆け巡る、機内ばかりか街の中、家庭にも届く、そんなワインを飲めるようにできたら楽しいかな」話す室園は嬉しそうだ。
そうか、商品戦略部の本質はそこにあるのか、流石、大橋イズム、ANA哲学はすごい。世界から愛されているANA機内ワイン。室園幸志のワイセレクションにかける思いは胸に打つ。
元ANA社長・大橋洋司が語っていた、
“今後、ますます需要拡大が期待される航空業界は、内部の事業構造の改革をいかに速めていけるかが勝負になる”
たしかに、ANACS&プロダクト商品戦略部という新たしいセクションは、時代の意思を確かに表現している。

ANAの表舞台を裏で支える男・有井 務
全日空商事の歯車は完璧
舞台には表舞台と裏舞台がある、そしてお互いに連携しながら大きな舞台を作り上げていく。
企業も同じだ、大きな舞台には必ず、それを仕切るセクションと、それを支えるパートナーの存在が絶対必要だ。
ワインセレクションの舞台には、パートナー全日空商事の存在が大きい。
ANAが華やかさを演出している陰で、そのすべてをプロディースしているが、まさに全日空商事の役割だ。
ANAが必要とする、ほぼ、すべての用品は全日空商事が用立て調達してきていることで分かるように、裏の主役の存在がいかに大切なのかがわかる。
いま、ANA・2014年ワインセレクションの舞台を作り上げた男がいる、有井 務だ。
全日空商事で、飲料関係を担当し、キャリアを積み上げてきた男だ。
そして、この4月客室用品事業部企画オペレーションチームに配属された。
有井 努はANAグループ社員でありながら、ワインアドバイザーでもある、ソムリエの資格も持っている。
辞書には、ソムリエとは、“レストランなどで客の要望に応えてワインを選ぶ手助けをする”とある。要はワイン専門の給仕人だ。
有井 努は、レストラン、バーなど現場に出たことがないから、定義である本来のソムリエではないが、通常のソムリエより奥が深い。
ソムリエ(Sommlier)語源はフランス語だ、フランスではウエイターがソムリエとして活躍していることが多い。

ワインセレクションの準備にかかる日数は、最低でも半年はかかると、有井 努は話す。
まず、世界のワインのカテゴリー選定からスタートだ。
これまで、フランス、イタリア、ドイツ、アメリカ、ニュージーランド、などのワインを各国のワイン代理店などにオーダーして、その中から時代に合ったワインを決めていた。
しかし今回(2014年ANA機内ワインとラウンジワイン)のワインセレクションは、今まで選考の候補にも入っていなかった南アフリカなど、新しい風を入れる準備がなされた。
その、すべてを、有井 努が率いるチームが当たった。
9月開催のワインセレクションに向けて、チームで何度もブレーンストーミング(Brainstorming)を行い、カテゴラス(Categorize)したものを、世界のワイン代理店191社(機内160社+ラウンジ31社)に向けて発信し、281種(機内225種+ラウンジ56種)のワインが、2014年ANAワインセラーに収まる。
有井 努は、ANAで提供される飲料関係のすべてにおける責任者だ、ワインだけではなく、ソフトドリンクも含め、機内に関するものはすべてが、有井 努のチームにかかっている。

「僕は4,5年ぶりに、この部門に戻りましたが、毎年秋に実施される、このワインセクションは今や、ANAグループ内でも重要なイベントとして位置づけられていて、多くの幹部社員からも問い合わせをいただきます」
数年前にも以前のワインセレクションには参加はしていましたが・・と付け足した。
新しい部門、生活産業・メディアカンパニーは独立採算制だ、要は小さな企業だ。
そのマネージャーである有井 努の言動には自信にあふれている。
今回のワインセレクションを根底から作り上げてきたという自負が感じられる。
「僕はそんなに動いていないですよ、チームの皆が力を合わせてこのセレクションの成功に動いただけです」あくまで、チームの力だ、という。
しかし、現場では、率先してすべてを動かし、休む暇なく動いている。
舞台の裏方は、散らかした表舞台の残物を丁寧に取り除く、再び華やかな表舞台を立ち上げていく、一つの出し物を成功に結び付ける役割を担っている。
有井 努は、まさに、黙々と、その裏方に徹している。
ANA機内飲料は鉄壁だ。
取材を終え、ANAという会社の層の深さ、個性のかたまり、コミュニケーションの確かさ、そして、大橋、山元、が唱えた、ANAizmuに今を感じた。
世界を相手に、どこまでANA航空産業が輝くのか、期待したい。
企画・取材・Nagasawamagazine
フォトグラファー・五頭 輝樹