NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

洒落・おやじの青春取材記  12 工藤 毅志

変わらぬレゾンデートル(Raison d’etre 存在理由) 

パーク・ハイアット 東京

1月29日(金)午後、久し振りに20年来の友人に逢いに、西新宿へ向かった。その友達とは、パーク ハイアット 東京なのである。「えっ、何故ホテルが友人?」読者は不思議に思われるでしょうが、ホテルというハードを言っているのではなく、このホテルに足を踏み入れるだけで、友人の温かみを感じるのである。今から22年前の1994年に、西新宿にオープンした外資系のホテルに出逢った。僕にとって、今でも全く変わらぬレゾンデートル(存在理由)だからだ。

そこで、時計の針を1994年7月初旬に戻してみよう。この西新宿に超高層ビル「新宿パークタワー」建設中の最後に、新しく出来るホテルの件で、メディアの人間の一人として、当時ラセーヌ編集長をしていた僕に、人を介して日本ではまだ数少なかった外資系ホテルのパーク ハイアットの初代総支配人(現アジア太平洋地区グループプレジデント)デイビット・ユデル氏に紹介され、ビルの横にあったプレハブの「開業準備室」を訪ねた。その時どのような話をしたのか正確には覚えていないが、僕が好きなホテルの話(海外でのホテルも含めて)や女性誌の読者の嗜好などを交え、また、このホテルの概要を聞きながら、ユデル氏のホテルに対する強い思いが伝わってきた。そして、即席のテーブルに、ナプキンやナイフフォークが並べられ、これから開業するパーク ハイアットのレストランで総料理長に就任する、ドイツ出身のライナー・ベッカー シェフが料理を運んできた。この俄かキッチンで創ったにも関わらず、とても美味しい料理に感激したのを覚えている。同行した編集担当者もびっくりしていた。その後、ほぼ出来上がったビルの運搬用エレベーターで最上階まで昇って、空から眺めるようなビューの雰囲気を味わった。

そして1994年7月9日にグランドオープンして、あちこちのメディアで取り上げ始めた。ホテルの内覧会で、こだわりのレストラン「ニューヨーク グリル」や大画面の映像用スクリーンを兼ね備えたボールルームや、シンプルなホテル内に気の効いたアートでアクセントを付けたモダンで温かみのあるインテリア等に魅せられた僕は、開業準備室でのことを思い出して、丁度、FEC(日本ファッションエディタークラブ)代表幹事をしていたので、今年度のFECデザイナーズ賞をこのホテルで出来ないかと思い、PRマネージャーに相談を持ち掛けると、総支配人のユデル氏を含めて、打ち合わせをすることになった。

ユデル氏と開業当時のユデル氏の片腕の一人、初代の料飲担当、副総支配人のメキシコ出身のアーネスト・デ・リマ氏、ユデル総支配人アシスタント(現セールス&マーケティング部長の伊秩裕子さん、イベント担当(現宴会営業部長)の西田禎之さん等、幹部の皆さんの前で、僕は本当に緊張しながら、FECの成り立ちから雑誌、TV、新聞等の編集長とファッションエディター100名を有する会員による組織で、今年度のデザイナーズ賞の記事を各社が報道するので、良いPRの機会だということも力説しながら、協力をお願いした。

ユデル氏から、贈賞式パーティはどんなことを考えているかを尋ねられたので、従来の一般的な白い襞のスカートを履かせたテーブルにひな壇のあるパーティ会場ではなく、全く新しいスタイルの、ファッションに相応しいアイディアを入た……」と話し出したら、ユデル氏もデリマ氏もそうだと言わんばかりの笑みを浮かべて、拙い僕の説明に耳を傾けてくれて、「ファッションのテーマカラーは何?」と聞いてくれた。「今年は明るい色、特にイエローが主流」と言った。そこでもう既にユデル氏もデリマ氏も頭の中に絵が描けたに違いない。このホテルは黒を基調にしているので、イエローはピッたりだ。僕は嬉しくなって、緊張も吹っ飛び、ライティングの話まで、ユデル氏は先刻ご承知の事を僕の嬉しそうな顔を見越して「同感だ」というように相づちを打って「クドウさん、意向通り、私達にお任せください」と言ったユデル氏の笑みが忘れられない。同席していた、伊秩さん、西田さん達も新しい取り組みに、大いに納得という表情をしてミーティングは終わった。

FEC賞贈賞式当日、僕達幹事5名にとって忘れられない光景が繰り広げられた。ボールルームの前のホワイエで受賞者の三宅一生氏、トリイユキさんを筆頭に会場に入っていくゲスト達の「ウワー」という声は、まさしくこのホテルのパーティの在り方を示していた。特に三宅さんは、日本でこんな洒落たパーティに出たのは初めてだと忙しいのに最後まで会場に残り、編集者やジャーナリスト等と歓談していたのも印象深い。

扉が開いた暗い部屋のセンターの細長い少し高い黒いテーブルに、長いガラスの花器に黄色いチューリップが天に届くかのように美しく輝いていた。ベッカー氏の料理もデリマ氏のアレンジも、新鮮で楽しめる趣向に場内のあちこちから称賛の声が聞こえた。

それから10周年、20周年とホテルの周年パーティは無論、このボールルームで行われた数々のパーティに、僕の最初の思いに毎回遭遇しているといっても過言ではない。

さて、話を今日1月29日に戻して、いつもと変わらぬホテルの41階に昇り、ラウンジにある竹林の植え込みの風景を撮ってから、52階へ「ニューヨーク グリル」の初めての友人に逢いに、そして開業当時からの友人に逢いに上った。まず、ニューヨーク グリル料理長のフェデリコ・ハインツマン氏が笑顔で迎えてくれた。「貴方のひと皿を」と注文すると、アルゼンチン出身の彼は「北海道産神内和牛サーロイン」グリルを作ってくれた。「何故?」と聞くと、「料理の基本は素材。この肉を選んだのはしっかりとした味わいがあり、バランスがいいからね。」とひと言。単純な言い方で単純な一皿に、この肉を食して、赤ワインを飲むと、じわーと旨味が広がった。やっぱり、ニューヨーク グリルは変わってない。

そして、隣にあるニューヨークバーで待っていてくれたFECパーティ打ち合わせ時からの伊秩さんと西田さんと再会して、「同期生だね」と冗談を言いながら、二人とホテルの変わらぬレゾンデートルを祝って乾杯し、PRエグゼクティブの石川さや子さんに頼んだ写真に納まったのだった。

 

 

 東京都新宿区西新宿3-7-1-2, 東京都 , 日本, 〒163-1055

 

                      工藤毅志 2016年1月31日 記