NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 8

「デザイナーとかコンサルタントの罠」

レストランやホテルを新たにオープンしたり、リニューアルしたりする際に、オーナーとなる方がレストランやホテルの経験者ならば差ほど問題はないのですが、異業種からこの業界に参入する場合には、スタッフやシェフも、雇いますが計画を立てる時に建設会社、デザイナーやコンサルタントも雇います。まずはオープンする日を決めてその日から逆算してデザイン起こし、設計図面等、用意し、オーナーが雇ったスタッフ達と進捗を確認しながら進めて行きます。

オーナーが『あ~したい、こ~したい』等の要望に沿って設計図面とデザインが出てきます。

この時に一番重要な事は、コンセプトがしっかりしているかどうかに掛かって来ます。得てしてオーナーは、要望が多いので絞り込みが必要です。又図面を見て色々話合いますが、図面だけですとイメージとか細部がボヤけるので意匠(デザイン)が、必要な訳です。しかしながら意匠を書かせると図面だけより金額がかなり高くなりますが、図面だけで進むと、大変な事が後から起こります。

シャンパンバー

まず、一番最初では、残念なことに、オーナーの意識したものとはかけ離れた図面が上がって来るのが普通です。それを、担当スタッフ、シェフ、コンサルがオーナーと見て話が始まりますがここでは収まる事はまず、ありません。何回かの討議の上、進捗はありますが、コンサルタントは当然、プレゼンテーションが上手ですからお金の事は関係なくバンバン提案します。デザイナーは、営業や運営の面より、往々にして見た目が重視ですから、サービスしやすい導線やゲストの使うテーブルの大きさや椅子等、機能面はあまり考慮しません。又外国のデザイナーに多いのですが、市松模様等、日本の古い方達はよく存じ上げているとは思いますが、特に商売に使うと縁起が悪いデザイン等、平気で使って来ますし、最近の日本人デザイナーもそう言う知識が不足していますから放って置くと出鱈目なものが多いのも否めません。ちなみに市松模様は戦時中流行った模様で『衰退する、無くなる』と言うことで日本は敗戦したときに流行った模様なのです。こう言うことを知らない無知なデザイナーが増えた事は残念ですが。又、店舗の責任者は、サービスのプロですから、これでは営業はできない。ゲストは冬場はコートがあるのでクロークはどこにあるのか、雨の日は、傘を置くところも必要だし、スタッフの休憩場所や事務所をどうするのか、ロッカーは、リネン倉庫は?と色々意見を言います。シェフもグリル、コンベクション、常温、低温ストッカー、荷捌きの搬入経路など様々な事を挙げてきます。

建設会社は県や市の消防基準や衛生上の問題がないか等を基準に、ここにはこれは置けない等の制約条件を並べて来ますから、それぞれが、各々の立場を主張して来ますから、もう大変な訳です。

ここで、異業種から参入するオーナーは、得てして、デザイナーとかコンサルタントの言う事に耳を傾けてしまう傾向があります。これが大失敗の元に成ります。

私がオープンを手掛けたお店はたくさんありましたが、その一つに、ホテルの中に日本で一番最初のシャンパンバーを作った時の事でした。このときはコンサルタントはデザイナーと兼任でしたが、イラン人の方でした。

まずは図面と意匠を見ましたら飛んでもないことに気が付きました。サービス導入上、食器の下げ場がありません。又図面では、解らなかったのですが、意匠を見たら、皿が乗るようなテーブルではなかったのです。私が指摘すると、そのデザイナーは、『シャンパンんを飲ませるだけなのに何故、そんなに大きなテーブルがいるのですか?』しか言いません。私は『昼はランチ、ディナーまではティータイムでも使うのです。シャンパングラスが載るテーブルだけではすまないのです。』と。

しかしながら、総支配人は残念なことにそのデザイナーが有名店を手掛けていたために私の言い分より、デザイナーを優先させました。シェフも怒っていましたが、料飲(レストランやバー部門をこう言います)のことが全く分からない総支配人でしたので、これは異業種から参入したオーナーみたいなものです。

蓋を開けたらば案の上、大混乱。ゲストが使った食器はなかなか下げられない。料理は、テーブルに載らない等、懸念していたことが起こりました。

そこで、副総支配人に直訴して36階のバーラウンジで使っていた古くて廃棄予定のテーブルを急遽入れてもらい交換することにしました。デザイナーとの契約ではそのデザイナーが仕様した店舗のデザインは最低限1ヶ月は使用しなくてはならないというバカな契約がありましたので1ヶ月たったら変えてしまえと言うことでムリクリ変えてしまいました。下膳置き場もレジの位置と取り替えて、スムーズにしました。これでまともなオペレーションが出来るようになり営業も順調になり売上も1日5万円位のチンケなラウンジから、日商35万円のシャンパンバーへリニューアルしました。2カ月後、そのデザイナーが急遽、現れて、テーブルを変えたことに激怒し、総支配人室に駆け込んで、文句をタラタラ言ったらしかったのですが、1か月過ぎたので現場のオペレーションを優先させたと説明しましたようでしたが、帰るときに捨て台詞を散々並べていったようです。その他、アメリカの有名店を渋谷に作る時や、デパートの中にパンケーキのお店を作る時も同じようなことがありました。では、一発ですんなり通る場合とはどんな時でしょうか?それはオーナーとなる方が自らお金を出し、その業界に少なくとも10年くらいは従事した方が手がけると徹底的に先陣切って仕切りますから、必死な分、上手く行くケースが多いようです。もちろんコンサルタント等、雇わず自分でやります。

卓上装花もデザインの一つ

葡萄畑を見下ろすエンジェル、素晴らしいデザイン


結論、何が言いたいのかと言うと、船には、船頭が多くなり、舵取りを間違えてしまうのです。まして船の免許が無いのに船は運転できませんしボートの免許で大きな船は操舵できる訳はなく座礁するか転覆するかのどちらかということです。

最近では、あるワインバーを立て直して下さいと3カ月だけ運営をお手伝いさせて頂いたお店がありました。ワインディスペンサーが何本もあり見た目は重厚感溢れるお店でした。着任した第一印象は、まずサービス導線が滅茶苦茶、キッチンも2人入る程度の狭さ、ゲストのテーブルは狭いし、リネン類を置く場所はない、スタッフが着替えるスペースもなければ、事務を執るスペースは皆無、営業時間はタラタラ長い。そんなお店でした。又食材の搬入口もなく、発注した食材はキッチンスタッフが出勤する11:30までエントランスに業者が放りっぱなしで、お日さまが新鮮な食材を暖めてくれていました。スタッフのシェフはソコソコ有名な方で腕も良かったですが、人間的な思慮深い経験は浅く、出来ない理由を見つける方が得意で、何とかしてやろうと言うチャレンジ精神や創意工夫を凝らす部分は残念ながら不足していたように思いましたし、きちんとしたハサップ基準を身に付けていない、BMLの検査基準も分からないようでした。さらにPDCAのマネジメントサイクルを作り進捗を追いながら営業を廻して行く等、勉強もしたことがないようで、行き当たりばったり、でも美味しい料理だけは作れる方の様に感じました。

少し横道にそれましたが、話を戻すと当初、お店を設計した方は誰かは存じあげませんが完全にデザイナーの罠にハマった一例と言える典型的なお店でした。従って、PL(お店の収支)も手の施し様の無い状態でした。ある日、トイレの手洗い洗剤が無くなったので同じものを補充しようとしたら500mlで3.500円もしました。スタッフに聞いたらオーナーがこの洗剤が好きなので・・・と言うことでしたが、これでは収支等直せるわけがありません。

私は若い頃、マネージャークラスの会議に出て、部長から『いいかい!君たちは売上のことを報告しているけれど、利益や、収支がどう推移したのか分析して発表していないね。それは、はっきり言って聴くに耐えない。ラーメン屋の親父だって、そんな事は分かっている。言い方は悪いが君たちはラーメン屋の親父以下だよ!』と言って席を立たれてしまった経験があります。

こう言う厳しい環境で育ったので今の私はその方には、大変、感謝しています。

ところでそのお店にはコンサルは役員となって残っていましたが、「改善をお願いします。」の一点張りでしたが、お店は完全に座礁に乗り上げて沈没寸前です。オーナーの強いこだわりとデザイナーのナルティシズムの塊が船を沈めた悪い例です。私は手直しできませんでしたし、手直ししようとしましたらそれ以前に既存スタッフと上手く行かず途中でそのお店を去りましたが、数か月後オーナーは店をクローズしました。私が唯一改善できなかった残念なお店の第一号となってしまいました。

飲食の業界は参入も多いですが撤退も多いのは、この「デザイナーとかコンサルタント」に半分以上、依存しているのは確かだと思いますので注意が必要です。もちろんメニューとかサービスも重要ですけど・・・今まで携わった様々な事例が邂逅の念として甦りますが、勿論、成功した例も沢山ありますよ!

悪い例として今回は『デザイナー、コンサルタントの罠』として記しました。

勿論、優れたデザイナーやコンサルタントも沢山いらっしゃいますので、そう言う方達と仕事をしたいですね。善き例としては、デザイン起こしをして、模型を作成し内視鏡のようなもので説明して頂けたデザイナー設計士もいらっしゃいました。それはそれは、凄いプレゼンテーションでした。何かの参考になればと思い記しました。

私の後輩

ワインバーT

ワインバー・T

神田神保町にあるカウンター12席の小さなワインバーをご紹介致します。実はこの店は私のホテル時代の後輩が一人で切り盛りしています。私の後輩のなかでは、飛び抜けた才能がありブラインドテースティング『目隠しでワインの産地や品種を当てること』の能力がピカイチでした。何年か前、独立しています。又、料理合わせも上手く中々の腕前?でした。F B を見ていると手作り料理も美味しそうなので、是非、訪れて見て下さい。ちなみにT と言うのは津村君の名字から来ています。私達は、彼を『ツムリエ』と言っていました。(笑)

 

神田神保町2-2-12サイエンスビルB1       Tel  03-6380-9465

キャロットラぺ

   マテウスロゼ           津村オーナー(別名ワインバー・T)別名ツムリエ

では、ワインバーT のキャロットラペにワインを合わせたいと思います。

キャロットラペは人参を細長くすりおろして、ビネガーやオリーブオイルで和えたものです。スッキリして歯ごたえも良く飽きずに食せます。

人参は根菜の一種で、馬が好みますから、あの大きな馬体を支える訳ですから、精力剤、スタミナ作りとしての効用があります。沖縄のシリシリは柔らかいものが多いようですが。又人参は独特のエグミがありますから調理に工夫が必要です。しかしながら夏場は甘味があって美味しく、ドレッシングにも依りますが、以上のことを考慮して合わせるワインを考えた時、やや甘口のロゼワインがお勧めです。

フランスでしたらロワールのアンジュロゼ、又ポルトガルのマテウスロゼをキンキンに冷やして合わせると良いでしょう。ところでマテウスをご存知ですか?私達がソムリエを始めた頃の、30年位前いやそれ以上前から輸入されていました。その頃はグリーンのボトルでしたし味わいもやや甘めが全面に出ていましたが、現在はスタイリッシュな透明なボトルになり、甘味もかなり控えめになりましたので是非合わせて見て下さい。ただしリーゾナブル過ぎてワインバーT では扱っていないので、是非、店主の『ツムリエ』さんにお勧めを聞いて見て下さい。ワイン以外も扱って居ますから。ではまた来月号にて。

 

by ニール