NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 7

脱皮

ホテルというところは、職場としては面白いところです。何故かと言うと、扱う対象となるのが、人、人間になるからです。ゲストを中心に、人と人がすれ違う場所でもあり、出会うところでもあります。しかしながら業務の内容によっては、ゲストと相対する時間的な長さから言うとレストランやバーで働く方達の方が、圧倒的に、ゲストと接する時間が長いのは事実であります。例えば、ホテルマンというと、憧れは、フロントですが、フロントはチェックインとチェックアウトの短い時間の中での会話になります。レストランはゲストが食事をしている時はずっといますから、そういう意味では長いですよね。しかし、フロントの方も、その短い時間のやり取りの中で、ゲストと揉めてしまうと大変なことになります。笑顔がないとか、パソコンを確認しながら会話するので、目も合わせないとか、時間がかかるとか、不満を抱かせたならば、ホテル全体の印象が悪くなりますし、責任者出てこい!となるともう大変です。

ところで、「責任者出てこい!」と言われた時、ホテルの総支配人が最高責任者になるわけですが、総支配人は絶対出てこないことをご存じでしょうか?フロントでこうなった場合、フロント支配人が出てきて謝罪となり、それ以上は刑事事件のような事柄にならない限り絶対出てきません。

レストランならば、料飲支配人が対応します。レストランの場合、ゲストの滞在時間が長いので、もし、ゲストからのコンプレインが発生した場合、変な意味、挽回する時間が長いので、そのチャンスは充分あるわけですね。夜中の時間帯ですとアシスタントマネージャーという方が対応致します。

コンプレインというのは以前にもお話し致しましたが、ゲストの不満苦情のことですね。往々にしてありますが、その主たる原因は、スタッフの対応にあります。先ほどにも記しましたが、ゲストも人間なら、スタッフも人間なのです。人間のすることですから、やはり完璧と言うことはありません。そう言った面では楽しみもありますが、怖い部分と表裏一体なのです。私にも若い頃があり、特に20代後半の頃は、ソムリエコンクールにも入賞した実績もあり、ゲストに対しても少し高飛車だった様に思います。その頃はソムリエは普通のギャルソンに比べて色々な」意味で優遇されていました。というのは今はソムリエと言えどもホールのウエイターの仕事やら、会計の仕事もやらなければいけませんが、その頃は完全に分業されていましたから純粋にソムリエはワインの仕事しかしませんでした。その事でゲストを怒らせたことも度々ありました。ワインを注文しないゲストとは、話もしませんでしたし今、思い起こすと生意気で慢心していたと思います。しかしながら休みは常にワインの勉強をしていた為、朝から夕方までは図書館の自習室に籠りっきりで勉強していましたので、ワインのことなら何でも聞いてみろ! みたいな頭でっかちだったんですね。20代の後半までそんな生活でした。(独身でしたし)

しかしながら、30歳を契機に家族のことである事件があり、悩んでいたころ、行き場のない自分を不思議な縁で、導かれる様にある方との出会いがありました。現在では故人となってしまいましたが、その方に助けて頂きました。人と言うのは30代が大体の節目で、凡そ、その人なりの人格が出来上がるかと思われます。而立の30代、不惑の40代とも言うように考え方や見方が出来上がってしまうのでしょう。また一方でしっかりしたものの見方、回りの環境と調和がとれた考え方を自己の中に確立していれば問題はありませんが、職業的にはソムリエのみに集中しのめり込み、社会人としてはやや孤立したバイアス的な見方に片寄っていた私を正しい方向へとベクトル変え、自我の平衡を保つことを教えて頂きました。長年の悩みが雲散霧消するがごとくの出来事でした。生きながら生まれ変わると言う大切な宝物を頂きました。まるである生き物が脱皮するような又は仏教の言葉を借りるならば解脱と言うんでしょうかそんな感じです。

“脱皮”というのは、セミに例えるならば、サナギの状態からセミになる時を思い浮かべて下さい。サナギから脱皮するまでの間、じっとしていなければなりません。その間、他の動物から身を守ることも出来ず自由に羽ばたくまでひたすら時期を待つのです。そういう意味では、脱皮とは、即ち、命がけということになりますね。人間も同じとその方(仙人と呼びますね。)は教えてくれました。人も成長の過程に於いて、死んでしまいたいような事は3回位はある。でもそれを乗り越えて成長するものだし、その様な窮状に陥っても必ず解決出来るようになっている世の中なのだと教えてくれました。脱皮はある意味、成長でもあり、解脱でもあり、悟りでもあるのだと。命がけでじっとしているのは、じっとしている事ではなく、人間に置き換えると、正しいり理に叶ったことを黙々と継続することに成ります。少し分かりにくいですかね。

では、イチロー選手を例にとってお話しを進めます。私の家内はプロ野球ニュースの2軍の現場を回ってレポートをしていた時期があります。昼間、練習している時は、当時、ヘラヘラした感じで普通にしかみえなかったそうです。しかしながら夜、皆さんが帰った頃にこっそり戻り黙々と打撃練習を明け方までしていたそうです。今でこそ、メジャーリーグで大活躍して色々なライターさんがイチロー語録を出版していますが、その中にも、メジャーリーグの試合が終わると、自宅に戻り食事の前まで素振りをし、また、食事が終わるとマッサージをするのが日課だそうです。彼にとってみれば毎日が真剣勝負であり、大げさかも知れませんが何十年と繰り返されるこの練習とメンテナンスの日々が脱皮の準備期間であり、大きく高い極みの世界に羽ばたく解脱なのかも知れません。オフシーズンは身体を休める等という時代では無くなっていることを既に何十年も前から知っていたのでしょう。

スポーツ選手は主に練習や試合を通して人生を学ぶ事が出来ますが私たちはどうでしょうか?

仙人は教えてくれました。山の中に籠ったり、滝に打たれたり、座禅をしたりしても、山の仙人には成れません。天地達観したり、悟ることもできません。人は世の中に出る。世の中には嫌味を言う上司もいれば足元引っ張る部下もいる。嫁さんに行けば、鬼のような姑もいるかも知れない。そう言った人間関係の難しいところを通って色々学んで、町の仙人になる、そしてさらに付け加えるならば、人生の大学生となるのだよと。簡単な人世なら誰でも通ってこられる。蝶よ花よと大切にされ何不自由なく送れる人生なら小学生でも出来る。君は人生の大学生になりたいか小学生になりたいかどっちなの? と。

サービス業界は人と人とのふれあいの場。でも対応の難しい人とそうでない人と玉石混淆の中で、どれだけ温良恭倹に対処できるか格となるコンピタンスをもち日々の精進に励みたいと思います。

仙人のことは,nagasawamagazineが、若しくは私、ニールが筆を納める最終回に詳しく記します。暑さ厳しき折り、読者の皆様におかれましてはお身体ご自愛下さいませ。

今月の料理とワイン

Garlic&Garlic

牛ひれ肉のアヒージョ

牛ヒレ肉のアヒージョに合わせるワインを考えてみたいと思います。アヒージョは「ニンニク風味」と言う意味で主にたっぷりのオリーブオイルにニンニクと他の具材を入れて煮込んだスペインの料理でタパスの一種です。海老の他、魚介類が多いですが肉を入れたものはちょっと珍しいかも知れません。普通は陶器に入れてアツアツのまま提供されますので、具材が肉なので赤を勧めるソムリエも多いかと思いますが、ここはやっぱり夏ということも意識するのであるならばロゼのスパークリング、スペインのカヴァをお勧めしたいと思います。具材が魚介類であるならば白のカヴァですがお肉ですからロゼで良いと思います。今回は銘柄を指定しまして「セグラヴュータスロゼ・カヴァ」をお勧めします。ロゼとしては比較的濃い色調でチェリーのアロマが印象的です。フウフウしながらアツアツをほおばった後、これを口に含むと綺麗に調和し口内も落ち着きます。このスパークリングは、バロセロナオリンピックの公式スパークリングになったこともありますが、比較的スーパーでも入手しやすいカヴァです。適度な苦みがガーリック風味を一層引き立て見事なマリアージュを見せてくれます。

by ニール