NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 31

切り取られる言葉、一人歩きする文章や発言

以前、テレビを観ていたら皆さんもご存じでしょうが、ある俳優の方が「不倫は文化だ」と言ったことが話題になり非難されたりして物議をかもしました。この言葉に限らずですが、発信された言葉、文章が良くある部分だけ切り取られて、やがて一人歩きして話題や問題になったりしますね。私は小学校の時、近所の家の友達の家で赤ちゃんが生まれたというので見に行きました。縁側から生まれて数か月経った赤ちゃんが寝ていましたが、その子がふと、何か食べ物を口に入れた時に、不味い様な時の、ギュッと目を強く瞑ってしまう仕草を見た小学生の頃の私は、「あっ!今、不味い顔をした!」と思わず口にしてしまいました。そうしましたら、この発言を聞いた親は「まずい顔(おぶす)で悪かったね!」と私に強い調子で言って来ました。何か口に入れて不味いもの、酸っぱいものと言う意味で使ったのに、ブス=まずいという風に解釈されて、怒られてしましました。子供心ながら言い訳しませんでしたが、とても気まずかったことは今でも忘れません。「不味い顔」の前後に文章・言葉が入っていればよかったのでしょう。例えば「あっ!今、何か不味いもの、美味しくないものを食べた様な顔をした!」みたいな感じですかね。そんな苦い体験があります。

ソムリエをしていた時のことでした。以前にも私の上司Hさんは、国内のソムリエコンクールで優勝してからよくホテルのレストランでワインのセミナーをやっていたときのことでした。その時に、フランス・ボルドーの優良銘柄を試飲してこう表現していました。「この赤ワインは渋みもしっかりしてアルコールも良く馴染んでいます。又ワインの格から言っても夜に飲むワインです。」とコメントしましたら、セミナーが終わった後、控えめな女性がアシスタントを務めていた私に「あの~、夜飲むワインって意味が分からないんですが・・・」と聞いてきました。こういう言葉や表現はその言葉を使った人間の感性や経験値から来るものなので伝わる方には雰囲気は分かって頂けるとは思うのですが、波長が合わない方にはさっぱり分からない言葉になる訳です。私はこの女性にこう伝えました。「ワインはいつ飲んでも飲む方の自由ですね!でも大概は夜飲むというかお酒はたいてい夜飲むことは事実ですね。講師Hが伝えたかったのは、詳しく付け加えると、例えばピクニックに出かけた時に、お昼に、飲みやすいロゼワインをキンキンに冷やしてサンドイッチや唐揚げと食べるとしたらそういうスチュエーションもある訳ですね。でもこういった深みのある赤ワインや格式のあるワイナリーで造られたワインはやはりきちんとした夜のディナーや家庭でもややかしこまった夕食の時にじっくり腰をすえて飲みたいワインですと伝えたかったんです。」と。納得されたかしないかの顔つきではありましたがこれ以上は言及しませんでした。

 

ワインでは私もこんな経験があります。あるワインのコメントを数十本書く仕事がありました。このコメントはある方達がゲストにワインを説明するときに使うもので外観・香り・味・合わせる料理などコメントしたものを印刷して、そのワインをサービスするときに、ワインの分からないスタッフがアンチョコとして使うものでした。

似たようなワインもありますが同じようなコメントにならないようにじっくり考えた末、各ワインのコメントの最後に、例えて言うなら、一言で言うとしたらと言う様なニュアンスのコメントを付けくわえることにしました。

これは以前、シャトー・マルゴーというワインを試飲した著名なソムリエが用いたやり方で、彼は「このワインは一言で表現するなら松坂慶子の様なワインです。」と言い切ったのを思い出したからです。

しかし固有名詞を出して表現したりコメントするのは危険なので、固有名詞は出しませんでした。

コメントの作成                 フィギャー・スケーター

例えば、「松坂慶子の様なワイン」ってどんなワインか想像できますか?もうかれこれ30年以上前の松坂慶子ならその雰囲気で、ちょっと妖艶で艶があって大人の魅力満載って感じですが、変な捉え方をすれば、松坂慶子を味わった?ことも無いのに(ちょっと危ない発言???)松坂慶子のようなワインとは言えませんし・・・。

そして私が使った表現は、フランスの淡い線の細い白ワインで酸味でキリット締まった味わいのワインのコメントの最後に、「華麗に氷上で舞うフィギュア・スケイターの様なイメージ。」と追記しました。

又アルコール感たっぷり豊かなタンニンでボディのしっかりしたカルフォルニアワインのコメントの最後に「プットシューター(砲丸投げ選手)の様な筋肉質を感じる味わい」と追記しました。

内心では自分でもいい感じかなぁ~等と思っていましたら、さぁ!大変!

数か月後に、依頼元から、「ニールさん、次回から例えば最後に付け加えた、一言でいうならこんなイメージのコメントは使わないで下さい]と連絡が来ました。

[何故ですか?]と私が聞きましたら、「ワインのことが元々分からないスタッフがお客様にワインの事で、説明を求められた時に、この言葉をそのまま暗記して、 華麗に氷上で舞うフィギュア・スケイターの様な ワインですと説明して、お客様に???? となってしまうからです。」と言われて、なるほどと思いました。

どうなのかなぁ~とも思いましたが、共通して言える事は、文章でも発言でも前後の書かれている事、発言されている部分が抜けてしまうと、そこだけ切り取られて、言葉や発言が一人歩きしてしまいます。

かつての大阪市長の橋本さんが記者会見をしているところを観ていましたら新聞記者やメディアとのやり取りも、市長の言葉の部分、部分を切り取ってやり取りを交わしていて随分憤慨されているシーンも見かけることが出来ました。

又興味深かったのは、元橋本市長は、「もっと勉強してこの場に来て下さい」とも仰ってましたね。少し話は変わりますが、何か人に尋ねる前には、少し、勉強したり下調べしたり前後の発言や文章を良く見直したりすることが必要ですね。

言葉のやり取り一つで言った言わないの齟齬も生まれますしやはり発信する側も慎重になる必要もありますが、発信する側で最近、うまいなぁ!と思う政治家では、(別に支持している訳ではありませんが)純粋に観て聴いていて小泉先生や石破先生ですかね。そんな風にテレビも見ると少し見方が変わるかもしれませんよ。

兎に角、言葉は切り取られます。

細心の注意が必要だと認識している今日、この頃です。

 

By ニール

 

講師と聞きて
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