NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 28

衛生管理

私はホテル出身のソムリエで現在も箱根のある会員制のリゾートにて支配人として勤務をしております。ソムリエの経験が長かった為、レストラン、バー、宴会場、ラウンジ等様々な施設(飲んだり食べたりするところを、ホテルの中では料飲施設と言います)で勤務して来ました。ホテルを一旦出て、本格的にチェーンのレストラングループの事業本部長を務めた時は、親会社が給食会社でしたので、ホテル同様、衛生管理には特に注力して来ました。レストランで働くというと、今から、30年位前は、ウエターからの出発になりますから、余り、私のように大学卒業の方は少なかったという時代でした。折角、大学まで卒業したのに、ウエーター(お運びさん)になるなんて!というイメージがあったかとは思います。昔はフロントに配属されると花形でしたが今は、そんなことはありません。そもそも考え方を変えれば、ウエイターという職業は、人が口にするものを扱う職種なので、命に係わる職業とも捉えることも出来ますね。話は戻りますがホテルには衛生支配人という職務の方がいました。又レストラングループにも衛生管理を行う部署がありました。やはり食に携わる現在ではリスク管理をしっかりしていないといけません。上記の衛生支配人も又衛生管理グループも現場をつぶさに見まわってきちんとチェックを行っていました。今現在勤務しているところもしっかりした会社なのできちんと行っています。

 

では具体的にはどんな管理を行っているかと言うと、従業員は出勤するとまず、体調管理表に記入を行います。

①下痢・腹痛の症状はないか?

②嘔吐・吐き気の症状はないか?

③咳・発熱の症状はないか?

④手指・顔の傷や化膿創はないか?

⑤同居人に体調不良者はないか?

⑥その他具体的な症状はないか?

上記項目に問題が無ければ○印をします。

あれば、上司から指示を仰いで医者に行ったり早退したり、又ノロウイルスの蔓延する時期は検便をとらせて陰性が判明するまで出勤停止となります。

又上記以前に体調が悪い場合は電話して出勤自体をさせません。

これが当たり前のことなのです。

さて健常者で勤務した場合、職場に入ると、30秒の手洗いを2回、マニュアル通りに行います。

さて健常者で勤務した場合、職場に入ると、30秒の手洗いを2回、マニュアル通りに行います。

その後、次亜塩素酸製剤の消毒液を噴霧して手消毒を行います。

レストランのスタンバイでは青のビニール手袋とマスクをして業務に取り掛かります。レストランに入るゲストにも手の消毒をして頂きます。

今は、ホテルに限らず、デパート、スーパー、モールにも手消毒の溶剤が置いてあるのは衛生管理の一環として浸透してきた証拠となります。

ここで、少し付け加えますと、次亜塩素酸の他、アルコール製剤で消毒というところもあるかと思いますが、アルコール消毒よりも次亜塩素酸消毒の方が推奨されています。これはアルコール消毒も効果がありますが、アルコールは良く刷り込まないと滅菌する確率が低くなる為です。今では100円ショップでもポケットに入るサイズの次亜塩素系消毒液が販売されていますから一般の方はお買い求めになって自己防衛した方が宜しいかと思います。

私の住んでいる箱根では、コンビニのイートインコーナーでインバウンドの外国の方が良くサンドイッチやカップラーメン等を食べていているのを見かけますが、入れ替わり立ち代わり人がコーナーに座って食事をしていますが、何か溢さない限り、テーブルを拭いたり消毒したりしているところを見かけません。私の部下の女の子が昨年の6月にノロウイルスに侵されました。

登山電車で出勤途中、宮ノ下辺りで気分が悪くなり途中下車して嘔吐しましたと連絡がありましたので、そのまま帰りなさいと伝えました。そして検体検査をしたところノロだった訳です。ノロウイルスは人の小腸の中で爆発的な勢いで増殖します。

潜伏期間は48時間が基準の時間なので2~3日まで遡り、何処で何を食べたのか調査します。

このスタッフの場合、昼は会社の従業員食堂と帰りの列車を待つ時間、小腹が好いたのでコンビニのイートインでコロッケや唐揚げ等を食べたことが分かりました。

後は自宅で簡易な食事しかしていませんでしたので、疑われるのはこのコンビニのイートインでの食事かと思われました。決してコンビニの食品を疑っている訳ではありません。その場所の不衛生さを疑う訳です。ですから自己防衛のために次亜塩素製剤を持っていれば、その場所を簡易消毒できます。噴霧だけで滅菌できますから便利です。その事故以来、会社ではポータブルな次亜塩素製剤入りミニボトルを携帯させるようにマニュアルにも記載健康させました。世の中には、もちろん症状も出ない、健常保菌者もいるので注意が必要です。

調理人はもっと大変です。手袋、マスク、ネット状のキャップを被り作業します。

和食などはお刺身を引いたりするので小骨等も微妙な指で見つける時がある訳ですからそれが困難になります。又調理場は衛生エリアとして扱いますから外部の人間、つまり支配人の私でさえ館内見回りの際、調理場へは、消毒後フル装備しないと入れません。その他の場所は非衛生エリアとして区分します。

例えば八百屋さんや魚屋さんが段ボールや発泡スチロールで野菜や魚を持ち込みますがホテルには、調達課とか用度課などの検品所がありそこで品物を確認して段ボール箱や発砲スチロールから他の容器に移し替えられ現場の冷蔵庫や冷凍庫に保管されます。 段ボール箱や発砲スチロールには虫の卵や様々な菌が付いていますから危険な訳で現場には持ち込まれません。

こういう衛生エリア、非衛生エリアの区分けがしっかりしているところがとても大切です。では、街の★付きのレストランでは如何でしょうか?街のレストランは余ほど規模が大きなところでない限り、この様な区分けがなされません。

オーナーもこういったしっかりした衛生観念がない方達が殆どです。

又以前にもお話致しましたが、異業種からこの飲食業界に参入してくるオーナーというのは大体が、自分の店をもつことに憧れをもっており、ステータスを感じる方が多いので知識は低く、又いい加減なコンサルや衛生知識の希薄なデザイナー等を使い、彼らの言いなりになりますから非常に危険な訳です。

以前、六本木にあるワインバーの業績回復のために、数か月そこに勤務した時には、調理場は非常に狭く、シンク(洗い物をする場所)も1槽しかなく、仕入れた食材も従業員が出勤する11:00まで入口に何時間も放置の状態でしたので、シェフに「こんな環境はハサップ上、良くない」と言いましたら、「だって置き場がないしその時間しか配達してくれないから仕方がない」と言っていました。

もっと驚いたのは、このシェフ、ハサップという言葉を知らなかった!ことです。これで2つ星ですから信じられませんでした。又星を付ける方達にも問題があります。

美味しいとか綺麗とかサービスが良いとかその様な基準でしかお店を評価する判断材料にしていないことはある意味、私には信じられません。

皆さんも事故が起きてからわぁわぁ騒ぐのは簡単ですが、まずは、安全を確保すること。これが一番の基準になります。都内で飲食店を経営するならば調理場には2槽式シンクが必要な事、適切な位置に手洗い場があること、次亜塩素製剤やアルコール消毒が備えてあること、従業員の健康チェック表があること、加えて様々な、衛生管理基準があることが必要な訳です。

ファミリーレストランでさえキチンとしていますが、星付きレストランには全部が全部という訳ではありませんが、多くのレストランが本当にルーズです。

又、今はコック帽を被らないシェフや調理人もそういうところは多いですし、お店の宣伝で両腕を組んでコック帽を被っていないシェフがかっこよく写真に写っているのを見ると私はそれだけでそのお店には行きたくありません。

いくら美味しくても、綺麗な内装でも、人間が口にする、命に係わる職業という自覚を持っていない、すなわち衛生管理が土台となっていないお店は私は好きにはなれませんが、皆さんは如何でしょうか?

話は戻って、このシェフはある著名な料理人と働いていました。

そしてその料理人は独立して★付きのレストランのシェフとなりましたが、このワインバーは業績が悪化した時に、コンサルの紹介と、この著名になったシェフの紹介でこのお店にやって来ました。

そして業績が上がらないので★付きとなったレストランの姉妹店のワインバーとしてお店の名前も★付きのレストランから名前分け(のれん分け)して再出発したのでこのワインバーも★付きとなりました。そのような訳でこのシェフの本来の実力ではなく★付きワインバーになったのです。今では潰れてしまいましたが、この料理人は違うお店に転職しましたが、そこでは名前がないので星が取れていないのがある意味、証拠になります。

当時は出勤するのが13:00頃、何やらネット検索して15:00頃にアルバイトが出勤すると、「かったるいから肩揉んで!」と言って16:00には食事して、17:00からだらだらした営業が24:00迄続きます。

そんな繰り返し。このシェフは自分がどうしていいか分からず、確かに美味しい料理は作れますが、経営力はゼロでした。

オーナーも元々飲食業界の方ではないので経営力ゼロ。

ゼロ同志が掛け算したってゼロな訳です。更に衛生管理も上記の最低条件を何一つクリアではありませんでした。こんな人がシェフだなんて私には信じられませんでした。美味しい食事を作る経験値は高くても、衛生管理、経営感覚は兎に角、ゼロでした。そこで私が投入された訳ですが、改善の為に、「ランチをやろう!」と言いましたら「そんなのやったって客はこないよ!」又「人がいないし出来ない」の一辺倒でした。

私は、出来ないことを、どうしたらできるようになるか?粘り強く考えることが仕事だと思いますし、経営だと思います。やらない、感心が無いなら辞めれば良い。

ピンチの時がチャンスの時という言葉がありますね。これはそれを乗り越えた方達の言葉ですが、実際はどういう事か、理解されていません。

概ね、世間では、法律改正の時がピンチの時です。経済のかじ取りは政府がやりますが、税金が上がったり規制が強まったりがその例ですね。この時、この法改正をきっちり勉強して、こういう法律ならこういう穴があるな、あんな感じの対応もできるな、と考えて試行錯誤して針の孔を見つけられた者がチャンスをものにした方、チャンスに変換したという事なんです。

 「かったるいから肩揉んで!」のこの一言に彼の人柄が集約されます。残念なことに、私が唯一改善できなかったお店となりました。

内装が綺麗、お洒落な美味しい料理、かっこいいシェフ。騙されないで下さいね。

 

さて話は戻りますが、衛生管理はとても大事なことなので皆さんもお店を判断する材料にしてください。インフルエンザ、ノロウイルスの時期は特にそうですが、冬の空気が乾燥した時に蔓延しますが、空気が乾燥すると、当然、湿気が無くなりますから、湿気があると菌というのは湿気に圧されて下に下がります。乾いた時期はその湿気に圧されることが無いので、菌は舞い、感染症になる訳です。

冬にマスクをする方が多くなりましたが結構なことだと思いますが、6月だから大丈夫なんてことは言えませんよ!注意はいつでも必要です。

ご自愛ください。

 

6月は箱根の紫陽花は満開です。

by ニール

 

*ハサップ=HACCP(食の安全基準)