NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 27

一心不乱 艱難辛苦してたどり着く処

私が35歳の頃、勤務先の親会社の主査(部長一歩手前のランク)の方からフランスのワイナリーツアーにワインテイスターとして同行して欲しいと言われまして約1週間、シャンパーニュとブルゴーニュへ行かせて頂く機会に恵まれました。

親会社の方は男性2名、女性2名で、どの方も年齢は近かったのですが私より皆様、歳は下でした。親会社の方の中でワインに明るい方は1名しかおらず殆どがワイン買い付けの話でしたので、テイスター兼アドバイザーで、私は参加していました。

この時、私の渡仏は2度目にあたりましたが、最初は30歳の時、シャンパーニュに1週間滞在してある有名なシャンパーニュハウスで栽培から醸造まで徹底的に勉強しました。又その後、フランス食品振興会SOPEXAさんのご紹介で、パリにあるレストランで一週間の研修をさせて頂きました。

当時、先輩から「フランスで研修するなら片言でも、フランス語は話せるようにして置いた方がいいよ!」と言われましたので、薄いフランス語の入門書を1か月丸暗記してから行きましたので何となくは話せるレベルでした。

もちろんサービスの研修ですから、「このワインはデキャンターに移しますか?」とか「この料理にはこのワインがいいですよ!」くらいの会話もできるようには、なっていました。

この時帰国の際にパリをブラブラしてお土産を買うのにワインショップに入りましたら「お若いの?何をお探しかな?」という声を店員に掛けられた時も、フランス語で対応できるまでにはなっていました。

 

今回は、二度目の渡仏ということでしたが、この様な、研修兼買い付けのワイナリー巡りは本当に体力がいる仕事でした。一日で複数のワイナリーに行き更に早朝からの移動、ランチの時間は大概が接待のランチ付きで、夕刻の訪問となるとディナー付き接待になります。

それでこのディナーが曲者で、長い、兎に角、長いのです。大概は0時を回ります。それで宿泊先ホテルに移動してまた次の日の朝が早いのです。これがだいたい一週間続きます。ジェットラグ(時差ボケ)がとれないままこの状況に突入しますから体調は最悪です。

まずフランスに到着したら半日から一日くらいは休憩したいところですが、遊びで来ている訳ではないので直ぐに移動移動となります。

そんな中、シャブリ(フランスの辛口白ワインの代名詞で特に生牡蠣との相性が抜群と言われています)の名門ワイナリーを訪問した時のことでした。

最初に若い当主(社長)に招かれて葡萄畑に行きました。(先代社長から若社長へ代替わりしたばかりの様子)シャブリを生産するエリアは北部に位置しますから冷涼なエリアに分類されます。春になっても霜が降りて折角、葡萄の樹が芽を出してもダメにならないように畑のあちらこちらにストーブが設置されています。

ストーブでまかないきれない場合はどうするか、ご存じですか?これの対応は、畑に散水して特に出来た葡萄樹の芽に水をかけて凍らせてしまいます。

霜が降りてそのままにしたら芽は全滅になりますから、畑周辺を温めるというのは分かりますが、散水によって芽を凍らせて反対に氷で芽を覆い保護しようということです。

氷の中ですと芽は生き続けやがて氷が解けてもそのまま開花まで持続します。頭の良いやり方です。シャブリというワインには等級がありまして、グランクリュ(特級畑)となるとスラン河沿いに畑が密集しています。

標高が低い為、気温も高いところに比べると寒くはないので優良畑となります。こういった知識は書物に書いてありますから事前に勉強できます。畑の中を注意深く見ていると葡萄樹のところどころにカプセルの様なものが、くくりつけられていました。

これは何ですか?と問い合わせたところ、蜂が巣を作らないように、蜂をフェロモンで刺激して、交尾させる状態にする臭いのカプセルとのことでした。交尾がしたくなれば蜂たちは自分のペアを探すために畑から出て行くのだそうです。なるほどですね、こういうことは現地に行かないと身に付かない知識なので大変参考になります。又私はソムリエという立場で訪問していますので、親会社の方達にもその他、諸々を説明しないといけなかったのです。

 

さて畑の視察が終わって醸造所に行きましたら、ステンレスの大きな円柱形の発酵槽が数多く立ち並んでいました。これを見て、あ~、書物から学ぶ知識には限界がある、のだなぁ~とつくづく感じました。と言うのは、この生産者はシャブリの中でも木樽で発酵する生産者と聞いていたからです。現地に行って観て初めて認識できました。

例えば、現場に立つソムリエはレストランに来るゲストにワインリストを見せて、「ここの生産者は発酵の時に木樽を使っているので少しスモーキーなシャブリになりますよ!」なんて説明してしまう訳ですから、実際に見て、使っていなかったらそのソムリエは嘘つきになってしまいますよね!

危ない!危ない!

さて一通り見学が終わってランチになりました。もちろん接待ランチですからビジネスの話が多いので、親会社の方々がメインに取引の話をします。そこに同席してきたのが初老のワインメーカーでした。

つまりこの生産者に雇われている栽培から醸造までを任されている責任者になりますが現場の作業服で同席して来ました。ランチは親会社の男性2名、女性2名、私が接待を受ける側、ワイナリーは若社長とその初老のワインメーカーの方2名が接待をする側となりました。

年齢からいうと、初老のワインメーカー65歳前後、次に私35歳、若社長は29歳、親会社の方達は28~33歳ということでした。

商談が始まり、重厚な接待ルームでケータリングされた料理を頂きながらそこのワインを、複数テースティングしながら、頂きます。

商談は英語で行われました。と言うか、親会社の方はフランス語が分からなかったのです。食事も出されていますからまずは親会社のリーダー格の主査の方がオードブルに手を出して頂き始めましたので私もオードブルに手を出した瞬間の出来事でした。

初老のワインメーカーの方がフランス語で私に向かってボソッと呟きました。今では単語やフレーズは思い出せませんが内容は明確に覚えています。確かこんな感じの事を言ったと思います。「お若いの!何でうちの坊ちゃんより若いのに、先に食事に手を付ける?礼儀がない!」と言って私をギロッと見ました。親会社の方達は分からなかった様でしたが私は、はっきり分かりました。何故、そんな事を言ったか、これを読んでいる方には分からないと思いますが、当時の私は年齢不詳の外観をしていました。

つまり、よく皆さんにも言われましたが、外見は20代前半に見える程、若く見えたのです。実年齢を言うと驚かれます。

今でも、56歳になりましたと言うと、「えっ!40代前半にしか見えない!」とも良く言われます。

当時は自分でいうのも何ですが肌は艶があり、とても若く見えたのです。

従ってその初老の、熟練の昔かたぎの職人魂をもったワインメーカーの方が、うちの社長である当主が食事に手を付けていないのに、何でお前みたいな若造が、食事に手を付けるんだということを言いたかったんだと思います。

私は、心の中で当主より年齢が上であるし接待を受ける側であるので私には非はないけれど、こういった職人気質の方も、まだいるのだなぁと思い「片言で(デソレ レゾン)と小さな声で返しました。

意味は、(すみません!おしゃる通りです)になります。」

私と、この初老の方しか分からないやり取りでした。ただ裏を返せば、私は遜りましたが、この初老の方は若い私に礼儀を教えてやろうと思ったかも知れませんが、ワインの栽培から醸造まで任された偉い方ですが、正装して私達が着席していても現場の作業服で同席されるくらい職人気質であり、この田舎町から出ず一心不乱に最高のワインに造りに精を出してきたものの、世間を知らず、自分の目でみた世界しか知らないようにも思えましたと、言うのが素直な私の感想でした。

人というのは広く付き合いをしてみて初めて自分より大きな世界感を感じたり、自分にないものを探すことが出来て人間の幅が広がるものです。

更に、何か事象を見たとき人は色々な物差しを使って観ます。

例えば、極端な話かも知れませんが、私の家内にある男性が何か話しかけて親しそうにしていたとします。それを観た私が、仮に、焼きもち焼きなら、「なんだアイツ!人の女房に声かけて何を話してんだ!」となるでしょう。

しかし寛大な見方が出来るならば、「あ~うちのかみさんは色んな人から声をかけてもらって、又、好かれているようで良かった!」と思うかもしれません。仙人は教えて下さいました。人間の目にはその人に合ったコンタクトレンズの様なものが付いていて、そのレンズを通して観るから、その観たままの世界にいるのだと!又焼きもちなら焼かせたほうが勝ち、焼いたほうが負けという面白いことも教えて下さいました。

良かったとか、有難いとか、そういう心掛けでもの事を観ると人生は潤うでしょう。外見はもちろん綺麗にしていることは宜しいことですが外見だけで人を判断するというのは危険ですね。

礼儀がある、なしというのは、とても大切で、礼儀がないと大変なことになります。意思疎通が叶わず、ボタンの掛け違いが起こります。

でも礼儀の前に、自分の天塩のかけて育てたワインを、飲んで頂いて有難いという気持ちや、相手を、まずは理解する、優しい心がないといけません。

私はこの初老の方は、職人気質で、こういった頑固な方も大好きですが、折角、頑なにワイン造りに捧げた長い人生は、ただただワインを造ることで消費してしまい、ワイン造りの先にあるとても大事なものを得られなかったか、失くしてしまったように感じます。

一生懸命働くことは大事なことです。でも一生懸命働くなら蟻でもできます。ちょっとキツイ表現かもしれませんが…。

実は、どんな事でも一心不乱になって打ち込んで、あれやこれや思い悩み艱難辛苦して奮励努力を怠らないでいると、辿り着くところは同じ所へ着く様に出来ています。

必ずや世の中の不思議さに気が付いて同じ所へ導かれます。人は皆、人間を通して、又、自然を通して学び、教えて頂くという謙虚な気持ちにならないといけないのだとつくづく思います。

水は高いところから低いところへ、そして、器に収まる時はそれぞれに形を変えます。水は方円の器に従うが如く、人も相手の器に合わせることが必要ですね。すると、導かれる場所、それは、読者の皆様が個々に想像してみてください。只々、年齢を重ねるだけであるならば、人生はちょっともったいない、いや、残念な人生になってしまうかも知れませんね。

 

私は自分のコンタクトレンズを外して物事が見れるように、努力はしています。ワインは私に多くの事を教えてくれました。感謝しています。また、人生は修行ですね!

By ニール