NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 25

センス  sense

       月にかかる雲               海辺のレストラン

私が都内のシティーホテルでシェフソムリエになった時、部下が直近で4名いました。もちろんシェフソムリエ以下は年齢や経験も含めてランクで役割分担をしていましたが、その中でメニュー(ワインリスト)の担当を誰にしようかと相当迷いましたが、K君にやってもらうことにしました。実は、私の持論の中ではお店のワインリストを見れば、そこで勤務しているソムリエの実力が分かるからです。これはコンクールで勝つとか上位入賞するとかいう問題とかとは別のことになります。私はこのホテルで日本で初めてのシャンパンバーというのを立ち上げました。

この時、どれだけシャンパーニュを知っているか、また新たにこんな飲み方の提案もという事象もメニューに盛り込まなくてはいけません。

ソムリエは店舗の形態やサービスの仕方に合わせてワインリストを書かないといけないからです。

美味しいワインや好みのワインをツラツラと並べるのも良いかも知れませんが、此処には、戦略的な思考が入ってきますし、時代の流れやトレンドも考慮します。

私は未だこのシャンパンバーのメニューは我ながら自画自賛しており自宅に保管してあります。

 

さて、今までは自分自らワインリストを作成していましたが、今後は部下に任せないと成長しないこともあり、ただ単に会社に来てワインを注ぎに来るソムリエだけの仕事の仕方は好みませんでしたのでK君に任せることにした訳です。

まづは、彼に、私の考えを伝えました。

デザインや文字、配列、価格など事細かに注文しました。

するとやはり初めての大役なので戸惑いながらも中々、良い出来栄えのワインリストを書いてきました。

個々のこだわりは色々あるかとは思いますが、

私の注文は、

1.ワインにはもちろん白赤ロゼがありますが、赤ワインの銘柄や価格を表記する

         際に赤い文字は使わないこと。

2.デザインは市松模様は使わないこと。

3.可能ならばカテゴリーに分ける際15アイテムずつに配列すること。

 

この3つは必ず守りなさいと言いました。

読者の方は、何故?と思うかも知れませんがこういったことは昔から色々な先人の方達の教えと言うか教訓とかが入っているのです。

今はもうこういう事を言う人はいないと思います。

 

では、その理由を記します。

1.は赤い文字を使うなというのは、単純に赤字になって縁起が悪いからです。

        簡単でしょ?そんな迷信みたいなことを信じているんです。

        古い方達は。

2.は市松模様というのは、日本では戦時中流行った模様なのです。

        つまり争い事、破壊される、貧しくなるという、こちらも縁起が宜しくないと

        いう柄なのです。しかしながら、外国のブランドメーカーでもこの市松模様を

        頻繁に使っていたり、又建築デザインも市松模様を好んで使います。

        迷信?そうかも知れませんね!でも先人達は知っていたのです。

3.は15という数字に訳があります。

        十五夜お月様というのは皆さんご存知かと思います。

       そう満月です。

       今風に言うのであるならばスーパームーンですかね。

マン丸のお月様つまり、円=お金が入る。調和がとれるということに由来しています。三越のマークをご存じですか?三越のマークは円の中に越と言う文字が入っていますね。良く見ると、その越という筆文字には跳ね上がったチョンチョンの様な、若しくはヒゲのようなものがあると思いますが、その数を数えてみて下さい。七・五・三と合わせて合計15か所跳ね上がっています。ですからデザインもメニューも15と言う数を埋め込むために、つまり昔の方は商売繁盛の縁起?を担ぎ、文字やデザインに工夫を凝らしたのです。おそらく、へぇ~!という読者と何だそれ?という方はいらっしゃると思います。皆さんはこれを聞いてどう思われますか?私は一生懸命やるだけやって後はゲン担ぎ?神頼みというのは大好きです。

実は、理由も話さずK君にこの注文でワインリストを書くように指示しましたが彼はその訳も聞かず黙々と作りました。しかしながら彼にもこだわりがあってどうしても赤ワインの文字は赤で書きたかった様でした。そして彼が持ってきたワインリストを見て驚きました。赤ワインのところは確かに赤のインクを使っているのですが、何と台紙を変えてきたのです。台紙は薄いグレーのものを使い赤いインクで印刷すると、少しくらいですが紫色の近い黒い色で文字が現れていました。あ~、Kは頭がいいなというよりセンスがあるなぁと唸ってしまいました。コロンブスの卵みたいな柔軟な発想、普段からあ~したい、こうしたいという自分を持っていないと出来ないことです。つまりその積み重ねがこういったセンスを造り上げて行きます。私は3つの訳を話したら目を丸くしていました。古い慣習を踏襲しながら新しい感覚を盛り込んでいく、どうでしょう?私でしたらうるさい上司だとしか考えなかったと思います。

今、私はマネージメント職が強いですが彼も外資に変わった会社に見切りを何年か前に付けて今では葉山のレストランで企画運営の部長職として勤務しています。いつか家内と行ってみたい素敵な海辺のレストランです。

春はもうそこまで来ています。

 

by ニール