NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 22

どうぞ、ごゆっくり!と、顧客との付き合い方と距離感!

12月になると街はクリスマスイルミネーションで満たされます。早いところは10月のハロウインが終わると11月から装飾が始まりますが、もとを辿れば、デパートのクリスマス商戦が始まりでこれにホテルや公共施設も合わせて装飾が始まりました。でも11月からクリスマスって、フライングのしすぎかと思いますけど。私が都内のホテルに勤務していた頃は、クリスマスというと、何処もかしこも、クリスマスディナーを用意していました。大概は22日~25日の4日間で、殆どのホテルのレストランはこのメニュー1種だけのご用意となります。また、予約はかきいれどきなので、大概は2部制となり、18:00~20:00と20:30~22:30の予約受付となります。親切なところならば、メニューは2種類ありますが、ほぼ満席になりますので通常は1種類でした。価格は私が勤務していた頃は、20.000円でした。ですから通常ご来店されている常連客の方達は、アラカルトがないので、つまり、普段のように、メニューに載っていない裏メニューも作って頂けないので一人もご来店することはありませんでした。

でも良く考えて見てください。18:00~20:00と20:30~22:30の予約受付って最初の18:00のゲストには20:00には帰ってくれ!ということですよね!そして22:30からのゲストに備えるためにテーブル回りを綺麗に整えなくてはいけないのです。では、入店の際に、私達、店側のスタッフは、「いらっしゃいませ!ご予約有難う御座います!お席にご案内致します。どうぞ、ごゆっくり!」と言っていますよね。でもごゆっくりされたら、次の2部目のゲストの案内が出来ませんから、困る訳です。つまり、このお迎えのご挨拶は、ゲストに対しては、時間内で食事をさせてしまうという申し訳なさが何ら感じられない杓子定規な挨拶と言えるのではないでしょうか?レストランのマネージャー(責任者)もせめて売上が前年よりオーバーしないといけないという気持ちが強いため、良く私には、シャンパンやワインをガンガン売って下さいと懇願します。レストランを回転させることと売上を伸ばすことしか考えていないとしか言いようがありません。第一、一見さんの様なクリスマスしか来店しない様なお客様に20.000円の高価なディナーを売って、飲み物だってグラスのシャンパンが2.000円、ボトルで12.000円を頼むと思いますか?せいぜいグラスか、ハーフサイズくらいが良いところとなります。もう完全に、ゲストの気持ちやお財布の中身を無視したお店からのゴリ押しの典型的なプロダクトアウト型です。せめて、「どうぞごゆっくり!」なんて言わなければ良い!と私は思います。

では通常常連のレギュラーカスタマーは何処に行くかと言うと、一番多いのがホテル内のお寿司屋さんで、次に、中華料理をご利用になられていました。もちろんお寿司屋さんも中華のクリスマスディナーなんてやってませんから、自由気ままにお食事されており、ワインも良く召し上がって頂きました。ですから私はクリスマスは部下にフレンチに常駐させて、自分はフリーに動けるようにしてお寿司屋さんや中華にワインをサービスに行く体制を整えていました。フレンチのレストランのマネージャーは自分のレストランが多忙ですから私にも常駐してサービスを手伝って欲しい様でしたが、私はマイペースでした。毎年のクリスマスではこんな感じでした。

ところで通常営業の日でもそうですが、およそ20:00くらいに来店されるお客様特に常連様が、ラストオーダー22:00、22:30退店を守らないことも良くありがちでした。本当に気持ち良いお客様は、時間を守って帰るか、バーに移って食後を楽しまれるゲストです。又、深夜どうしても遅くなる時は、「今日はスタッフは何人いるの?」と聞いてくれて人数分のタクシー代を渡して頂ける粋なゲストもいらっしゃいました。しかしながらラストオーダー過ぎても一向に帰る気配もなく、24:00を回ってもわざと帰らないゲストもいました。ではそのゲストの目的は?と言いますと、「他のゲストが退店されたのだから、君たちもネクタイを外して、そこに座って付き合いなさい!」と言って痴話話が始まるわけです。月に何度も来店されますからマネージャーも断れませんし、マネージャー達は、そういうゲストに限って外のレストランで驕ってもらったりしている訳で、ですから尚更、断れません。私の部下の女性ソムリエにも常日頃から、「君はゲストに外で何か御馳走に誘われたり、飲みに誘われたら、絶体に行ってはいけない」と何度も釘を刺していましたが、陰でコソコソ行っていました。ある日その女性スタッフを呼んではっきり絶体に行ってはいけないと諭しましたら、「何故ですか?マネージャーも行っていますよ!」と言い訳をしたので、こう言いました「君は、ゲストの飲み食いさせて貰ってそれをどんな形でお礼として返せるの?返せないでしょ!それでそのゲストが、聞くに聞けないわがままを言って来たら誰が対応するの?」と言い、さらにレストランのマネージャーなら権限があるから責任も自分でとれるけど、君の場合、とれないでしょ!私があなたのお尻を拭かないといけないのは私なの!分かる?」と諭しましたが、頑固一徹な性格の為、聞き入れて貰えませんでした。そして危惧していたことが起こりました。フランスから3つ星シェフが来日するということになりまして、全員出勤の体制の6日間、彼女からその期間は休ませて下さいと申し出がありました。何故?と聞きましたら「常連のKさんとフランスに行くことになっています。」との答えでした。まさか!とは思いましたが念のため確認してこう聞き返しました「もしかして、Kさんが全て旅費を負担してくれる訳ではないよね?」と問いただすと」その通りです!」と答えました。私は「君は、このフェアーが行われるのを前もって分かっていて、レストランのスタッフの全員出勤の体制をとっているのに、それでも行くの?」と聞きましたら「私は本当はどうして良いか分かりません!」と答えましたので、私は「基本、お断りしてください。ましてフランスに行くのは自費ではなく、その金額がいくら掛かるかくらいは承知しているよね!そんなに出させて深みにハマってしまったら、帰ってきたらそれ相当の処分はするからね!」と伝えました。翌日、彼女からお断りしました。が次の日、顧客のKさんから会社の内線携帯に私宛に電話があり、話がしたいと連絡がありましたので、お昼に空いているホテルのチャペルの親族控え室で話すことになりました。会って話を始めるや否や、「どーして、N(その女のソムリエ)とフランスに行ってはいけないのだっ!」と怒鳴られました。私は、会社で★付き有名シェフのフェアーがありますし全員出勤で臨むことになっていますから」と説明しても「そんなことは知ったこっちゃない!俺はNをフランスに連れて行くと前々から約束していたんだ!」の一点張りでした。一応、顧客ですし「そんなに気に入っていただけるのなら行かせますよ!」と言って場を収めました。その顧客は何故?うちのNをどうしてもフランスに連れていきたかったか私は熟知していました。Kには奥さんも、もちろんいますが、Yという愛人がいてこのYが、Kの部下であり、個人経営ですから奥様もYの存在は知っていますが、まさか愛人だとは認識していませんから、Yとフランス旅行をエンジョイしたかったのです。しかし、大ぴらに会社の経費を使ってYだけ連れて行くわけには行かなかった為、Nをだしにして、こいつはソムリエだから葡萄畑めぐりもツアーに入れて、KはYとフランスに行きたかったのです。また、Nは渡仏経験もなく、ワインの本場の地を踏みたいという気持ちが強く、Kのたくらみを知りながらも、全額負担を条件に引き受けた訳です。私は、Nに「行っていいよ!その代り一言だけ言わせてくれ!お前は卑しい奴だな!」と言ってやりました。

振り返って、顧客とある程度の距離を置かないとこんな事件も起きてしまうわけです。「ギヴ&テイク」のところでも記しましたが、何かやって頂いたなら、それ相当のものを返さないといけません。それはゲストに対しても同じことが言えます。私も、自分の顧客に、銀座の超高級寿司店に連れて行ってもらったり、恵比寿にあるフランス料理店やはたまた、高級クラブにも連れて行って頂いたことがあります。しかしながら、お店に連れて行かれたらワインリストからワインを選んであげたり、薀蓄を解説したり、兎に角、気を使いっぱなしです。家内と同伴で連れて行って頂いたこともありました。でも、何か私が、旅行に行った時は必ず手見上げや喜びそうなものを必ず買って来てお渡ししていました。(御殿場アウトレットで主に仕入れましたが・・・笑)そういうことが出来ないのであるならば、すなわちゴチになるばかりなら、私は卑しい人間だと思いますし、こんな言葉で表現はしたくはありませんが、物乞いと一緒だと思いませんか?

Nは帰国後、上司と相談し、(配膳会の人間でしたので)ワンランク賃金ダウンにし、残業の付かないナイトシフトに近い、夜専門にしました。

しかし相変わらず、コソコソと懲りずにゲストとの付き合いのスタイルを変えることはありませんでした。約10年位前のお話です。

Nさんは、今はどうしたと?と思うでしょう。彼女はある社員食堂のようなレストランで元気に働いていますよ。何度、言っても、諭しても分からない、可愛そうな子です。(涙)

 

by ニール