NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 17

シリーズ 上司 2

「シェフソムリエH」副題・・・ワインを育てる

 

 

私が東京のシティーホテルでソムリエになったのは1987年4月のことでした。当時ソムリエは6名いて、その一番下でしたが後の1998年に時とともに上司だった方達が辞めて行かれてついに私はシェフソムリエになりました。

一番最初にシェフソムリエをされていたのはNさんという方でしたが在籍5年で辞められたので次に昇格してシェフソムリエになられた方がHさんと言う方でした。

正直、仕事は出来ました。初代シェフソムリエのNさんはワインリストも作れな方でしたのでこのHさん任せで、全てはHさん指揮の元、売上管理、労務管理、コスト管理、企画など全てをこなすマルチなソムリエでしたが兎に角、色々な意味で凄かった方です。

以前にも少し永澤さんとの対談の中でお話致しましたが、そのソムリエの仕事ぶりや資質を判断する時、どんなことを見れば良いか?皆様は余り存じあげていない様なので振り返りますと、そのお店のワインリストを見れば、そこでコアで働くソムリエの資質が分かります。これは皆様からは分かりずらいかとは思いますが、ワインリストというのは本当に勉強を重ねたソムリエしか作れないからです。そこで働く店舗の運営形態、従業員のスキル、来店ゲストのニーズ他、その時期のトレンド等を全て考慮に入れて作られます。特にソムリエコンクール等で優勝しなくても常に上位入賞の常連になるようなソムリエは、普段から相当、勉強をしています。休日は殆ど勉強の時間にあてているのが普通です。私も何度か上位に入賞の実績はありましたが、休日はいつも近くに卒業した大学の図書館がありましたので卒業生はそこを無料で利用出来ましたので毎回、そこに通ってひたすら勉強をしました。勉強は主に地理の勉強に似ていますから暗記、暗記の連続でした。(学生時代、音楽の次に地理が嫌いでした)

当時は隔年に一回の開催でしたので兎に角、筆記試験を通らないと前に進めませんので暗記の苦手な私は苦労しました、というより学生時代、これくらいの熱意があって勉強していたらもっと他の道もあったのかも知れませんと思うことも最近では良くあります。

さて、そのシェフソムリエの上司Hさんと仕事をすると日々のサービスは柔らかな物腰です。ワインリストはレストランで行われるフェアーに合わせて選定する以外、年に一回は更新していました。当時はパソコン等無かったのでワインリストも印刷屋さんに出さねばなりません。予算も頂き、作成草案、校正戻し、購入など手順を踏んで行います。ではサービスをしながらワインリストって何時、作ると思いますか?実は当時は営業が終わってから、ホテルに泊まりこみで作っていました。営業が終わってかたずけて日報を書いて、夜中の12時くらいから毎日3時間くらい、一週間くらいかけて作成します。私が一番下でしたので、Hさんはいつも私と泊り込んで作成していました。では、何が凄いのかと言いますと、作成にとりかかる時、カンディアンクラブのソーダ割り(ウイスキーハイボール)を私が作ります。そうするとにっこり笑って美味しそうに飲みながらワインリストの作成に取り掛かります。つまり飲酒しながら仕事をするのです。当時は、最初は面食らいましたが、それが当たり前でした。

ワインリストの原案は手書きでしたので、シャープペンでスラスラ書き始めます。業者からの提案やカタログのワインはすでに頭の中に入っています。何時間か過ぎて、ある時、高価な若いヴィンテージのワインをワインリストに記載してからペンを置き「これどう思う?」と聞いてきました。こういうことは頻繁にあります。最初は、これが一番辛いことでした。何せ、知識がないと答えられないからです。私は「それは、ヴィンテージが若いので未だ載せても出ないでしょうし、その値段では売れません!」と答えたことがありました。そうしましたら、「あのさぁ~、お前の言うことは分かるんだよ、でもね、今、買わないと値段が上がっちゃうの!来年買えないでしょ。今から買って載せてワインを育てるのよ~。分かる?会社はさ、ワインリストに載せないとお金を出さないでしょ!だから売れないと分かっているソムリエが故意に売らないで、会社の人間はワインのことは分からないんだからさ、このワインを2年後、3年後までに温存して育てるの、そうしたら今の価値にもっと付加価値が付いて高く売れるでしょ!」とこんな感じでした。これは経験やセンスがないと出来ない技です。今の特に外資系のホテルなどは在庫を業者に持たせ本数単位で購入しろと言います。簡単に言うと、在庫をあまりと言うか持たないですぐに売れ!と言うことですね。私の先輩でSさんという方がシェフソムリエになった時も、ロマネコンティの1994年ものを24本買ったことがあります。その頃の購入仕入れ価格は1本当たり110.000円でした。簡単に言うと、264万円の在庫金額が上がりましたが、その時、ワインのことが分からない部長はそれを聞きつけてSさんにこう言いました「この在庫金額の増加はどういうことか!誰の権限でこんなことをしたのか?」というお叱りの言葉でした。私の先輩Sは堂々と「はい、シェフソムリエの私の権限で買いました。何か?」と答えました。それからは先輩のSさんにたいする風あたりは強くなり、ハラスメントまがいの言葉の毎日に堪えられなくなりついには会社を辞めて行きました。その時「お前の時代になった時のために買ったんだから、頑張れ!」と言ってくれました。2007年ころ、レストランで高額なワインを好むゲストにこのロマネコンティは飛ぶように売れました。何故だと思いますか?それはこのロマネコンティを45万円で販売できたからです。普通なら100万円で売れるくらいの価値が年を重ねる度に上昇します。しかし11万円で仕入れたのですから充分45万円でも元は取れるのです。(あんまり売れすぎたので後から55万円で売りましたけどそれでも売れました)

みなさんの中にも、そんな在庫は抱えられないという方もかも知れません。在庫をもっている長い時間の機会費用を計算して、そんなの無駄だって考えるのが今の外資系の考え方です。じゃあ、そのワインで誰が飲むの?楽しみにこられるゲストなんじゃないのですか?お客様を喜ばせる、特にワインにコアな部分を求めるゲストも喜ばせることが売り上げにもつながりステイタスも獲得できるのです。そういうことが大事なのではないでしょうか?会社のオーナーをまず、喜ばせる考え方が主流な外資系のやり方は私は少し残念です。私はこの上司Hさんからワインを育てることの他、色々なことを学びました。今では疎遠になりましたが、たまにFBでポツリと発言しています。

以下そのコメントを載せます。

*これはワインを持ち込むゲストに対するコメントです。

 

勉強になるだろ・・

「君たちも飲んでみたまえ・・勉強になるだろ・・」

ワインをレストランに持ち込むお客さまが云う。

申し訳無いですが自分の勉強は自分で工夫します。心配ご無用・・

自分の勤めるレストランの雰囲気や料理、お客様の求めるものを、体感しながら選んだワインリストがあり、ソムリエの育てたワインがある。

「だって、君の店にはこんなワイン無いだろ・・」

ソムリエの揃えたワインに不満なら来なければ良い。

ワインの持ち込み程ソムリエを傷つける行為は無い。

ソムリエの思いが品揃えになり、ワインリストの価格にはサービスの対価が入っているのだ。

ゆえに、長く付き合って下さるお客さまや、友人の同業者だけに許される行為なのだ。

それでも特別の時に限るしね・・・

レストランに料理を持ち込む人がいるだろうか・・・

 

以上

 

*どうかいつまでも元気でいて下さい。

 By ニール