NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

ワインバトラー・ニールのライフワーク Part 11

接待

ホテルの様な高級なレストラン等では、色々なゲストが様々な形で接待をするシーンがあります。私が以前勤務していたホテルは東京の港区の真ん中、国会議事堂のそばにありましたので、議員先生を始め、お医者様を含めたハイソなゲストが多かったのが事実です。その中で最も印象に残っている接待は、お医者様への製薬会社の接待で、それは、それは、凄いものでした。今では存じあげませんが・・・。

製薬会社とういのは薬品、主に薬を開発するのに何度も臨床実験をし、安全安心と認可されるまで相当の年月が掛かります。その期間に掛かる時間と経費は莫大となりますが、一旦認可をとることが出来ればようやく掛かった資金を回収できる訳であります。又その間類似の薬を開発しているライバル会社に出し抜かれると大変な機会損失になるのです。従って、臨床認可に関わる、お医者様への「宜しくお願いします」の接待が頻繁に行われていました。

私が勤務していたホテルにはT大学のT先生が御贔屓にして頂いていたお蔭?で、まざまざとその実態を見ることが出来ました。T先生は、ワインはシャトー・マルゴー(収穫年にもよりますが私のサービスしていた頃は平均で15~25万円が相場のワイン)が大好きで、前菜は大根をブイヨンで煮たものの上にソテーしたフォアグラやキャビア、エスカルゴの卵(珍味の中の珍味)、メインは特選の熟成牛の最高ランクのステーキを必ず注文していました。接待する製薬会社も数人同席しますからトータルの料金は物凄いお支払となる訳です。しかしながら料理というものは高くても3万円前後で収まりますがワインだけはそうは行きません。ワイン次第では青天井状態になります。

では何故?そうまでして製薬会社の方々はT先生を接待するのかというと、早めに通してしまいたい臨床試験結果データーをこのT先生のハンコがあれば一発で通ってしまうのでタイム&マネーのロスを防ぐ事が出来るからです。又、昔の時代劇ではありませんが、悪代官と商人の関係の様に金銭の授受はないのでしょうが、最高の贅沢を享受できる訳ですから、法律に触れない?ギブ&テイクなのかも知れません。

ある時、AGという製薬会社の担当が私のところにきてこう言いました「T先生がいつものシャトー・マルゴーと言われたら、今日は予算が無いのでそれに近い何かお勧めのものを勧めて下さい!」と。

私はもうT先生は、ハイエナの如く、製薬会社のお金を使うのが当たり前になっているのを存じ上げていましたので、「ハイ、努力はしますが、どうなっても知りませんよ!」とだけお答えして置きました。さあ、接待が始まりました。最初は次回提出する薬品の資料を見せながら、大好物の超高級ウイスキー(ロイヤルハウスホールドの水割り)を召し上がりながら、ウンウンと頷いていました。その後、会食に入りましたので、私は仕方なく「今日はシャトー・マルゴーと同じエリアにあるシャトー・パルメ(約35.000円)をたまには比べて見るのも面白いかも知れないのですが如何ですか?」と。

そうしましたらT先生は、訝しげに「ではそうするか!」と。ホット胸を撫で下ろした私と製薬会社の担当者でした。

そして、味見をして頂きましたら、T先生、一言「貧相なワインだねぇ~。」 私はこりゃヤバい、ヤバすぎると思いましたが、次の言葉が凄かった!

「あのさぁ~、私を誰だと思っているの~、どうでもいいんなら、もう、どうなっちゃうか知らないよ~!」と。私は間髪入れず、ではすぐに「申し訳御座いません!すぐにシャトー・マルゴーをご用意致します。」と言って取り替えてしまいました。もう製薬会社の担当に何と言われようと構わず用意しました。そしてシャトー・マルゴーの味見をして頂きましたら「お~やっぱりフィロソフィーだね~!」と言って頂けましたが、製薬会社の担当の方は、「何で、シャトー・マルゴーを出したのですか?」と目くじらを立てて、くってかかってきましたが、私は「では正直に、AG製薬の担当者から、今日は予算がないから、安いワイン(決して安くない!)を勧める様にと言われましたのでと言っても良いのですか?」と言いましたら、黙ってしまいました。

 

反対にTS製薬会社という会社のT先生担当で、悪知恵の付いた者がいて、T先生のコバンザメみたいにどこへでもついていきすべて会社の接待費で落としました。T先生を旅行に接待したり、贅沢三昧の会食をし自らも同席していましたし、T先生がいなくても、家族で食事に来て、T先生と同席したことにして領収書を切る強者もいました。

もっと凄い方は、T先生と学会で知り合いになった町医者で、M先生という方は、T先生と常に連絡を取り合い先生がホテルに来ると、製薬会社とは全く関係ないのに合流してきて、御相伴に預かります。そしてこの町医者も悪知恵が働く方でしたので、「T先生が食後のバーに行くから、ここからは私と先生で話す。」と言って、バーでバレンタイン30年をキープします。キープだけなら未だ可愛いですが、お土産で1本持ち帰ると言って、キープボトルとテイクアウト2本分が、その製薬会社の勘定書きに載っていきます。

T先生はその頃で70台後半でしたから今はもういらっしゃらないのかもしれません。接待の中での会話を集約してみると軍医もやっておられ相当命がけで苦労はされた様です。しかしながら晩年は(この方はいつからこんなことを始めたか存じ上げませんが)製薬会社を食い物にするような上記に記したお医者様になってしまいました。

 

さて、これをお読みになられた読者の方は、裏ではこんな世界があるのか?と思うかも知れません。当時の私も、何だか汚い世界だな!とも思いました。又私達ホテルマンも口が堅いですから当時はこんなことがあっても、絶体、他言するようなことはありませんでしたし、何より、お店の売上に貢献できる訳ですから、何も言及しない訳であります。

つまり、ハンコを押すだけで贅沢三昧のT先生がいなくなれば困るのは実際のところは、結局、製薬会社や売上が伸び悩んでいるレストランです。T先生の行為はずる賢い汚い行為かもしれません。

 

仙人が教えてくれました。11月号に記したように、世の為人の為に尽くしたキンちゃんには目に見えない徳(得)が付いていて一生食うに困らないんだよと。すなわち、このように、特権を利用して、おいしい行為をしても、上に立つ立場で平然としていられるのは、その人達に徳という無形財産がついているからなのです。もしかしたら、T先生は、軍医だった頃、戦場で傷ついた兵士を命がけで助けてきたのかもしれません。弾丸が飛び交う中、その中で必死に治療をしてきたのかも知れません。生きて日本に帰る保証等ない中、将来が見えない中、兵士が死んでゆく様をありありと体験してきたのかも知れません。どんな人でも陰でとても良いことをしている場合、その人は無形財産の徳が付いています、そしてそれは目に見えないようになっています。ですから、この様な人達のことで反対したり、バカにしたりしても反対にそうしたことを思ったり言ったりした方達の方が無形財産が少ないので反対したりバカにしたりした分だけご自身の徳を減らすことになります。ですから当時は、こういった方達を批判していましたが、現在では否定もしませんし、色々と勉強になるなぁくらいにしか思っていません。

 

しかしながら、仙人はこうも教えてくれました。無形財産の徳は使いすぎて減ることも、もちろんあると。これを「徳削り」と言って削ってマイナスになってしまったらどうなるか?厳密にはお教え出来ませんが、不徳人となり、運命は悪い方へ転落してゆくとだけ記して置きます。

T先生はあれからどうしているのでしょうか?コバンザメのような町医者のM先生はどうしているのかなぁ?とたまに思い出すことがあります。良く、間違いや失敗を犯した時、「身の不徳の致すところです。」というではありませんか。あなたはどう思いますか?

 

今月の料理とワイン(白ワインと赤ワイン)

今月は料理とワインのマリアージュというのは一回お休みさせて頂き、経験則に基づくお話を少ししようと考えています。最近、グラスに注がれたワインの持ち方について色々、議論されています。ワイングラスを持つ際は手の温度がワインに伝わらないようにステム(グラスの下から伸びでいる部分)を持つとされてきましたが、昨年あたりから、「それはソムリエや専門家の方々がテースティングをする時」とされており実際はワインが注がれているところ(ボウルという部分)を持つという様に変わってきました。確かに、オバマ大統領が晩餐会がワインをお召し上がりの際もそうですし、外国の映画やドラマを注意深く観察しているとそのような傾向に変わって来ました。まぁ自由に楽しみましょう、エンジョイしましょう、又こちらの方が立食等でも安心ですし。確かにステムを持ってグラスをクルクル廻してワインの香りを嗅ぐのは専門家だけで良いのかも知れませんね!

最近のミニ知識でした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メリークリスマス。

 

by ニール