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ブルガリと私の回想録 6

顧客志向の真髄:「外部顧客」と「内部顧客」という発想

 

「顧客より社員を大事にせよ」と言う人材コンサルタント、その心は?―

 

ヴェニスでのインターナショナル・コンベンション参加の総勢、最前列赤丸が筆者 (’97.5.4~7)
ヴェニスでのインターナショナル・コンベンション参加の総勢、最前列赤丸が筆者 (’97.5.4~7)

人材に惜しみなく研修費を投資した当時のブルガリ

 

社員のための研修費を使うことにかけては当時のブルガリは他を圧倒していたでしょう。ある教育関係の統計で、当社の人材研修費を計算してみると全国平均値の10倍近くにもなっていて驚いたことがあります。

 

 先に紹介した「ブルガリ大学」は間もなく「エクセレンス・プログラム」と称されるようになり、<ファミリー意識>をベースにしたグループの結束を高めるための研修の場となりました。海外への招集をはじめ、また国内でも、イタリア本社から派遣される人材コンサルタントが来日してテーマに沿った研修を行いましたが、今回はその中のVOCVoice Of Customer=顧客の声 )というテーマの「顧客志向」に関する話です。

 

「お客様は必ずしも神様ではない」がブルガリの思想

 

まずVOC研修の冒頭に、ブルガリの顧客に対する考え方として、顧客に媚びて、何でもYESというのは本来の「顧客志向」ではないとし、NOと言うべき時にははっきりとNOと言うべし と言う発想の転換を強く求められました。

先の稿で述べたショップにおけるブルガリ独自の販売スタイルに見られるように、求めない顧客には決して無理強いせず、一方、顧客にその意思があれば120%にも対応し、並みのサービス以上の“サープライズ(期待以上の喜び)”を提供する。更に、理不尽な要求や無理難題をする顧客は“範疇に入らない”という思考です。

これはショップを通じた顧客との永続的なお付き合いを前提として、そこでの諸事は全てショップ内で完結させると言うヨーロッパの高級小売業の基本スタイルで、ショップを企業単体と同様にみなし、店長には販売力以外に、ショップ経営者としての視野や指導力などの資質が期待されたものです。

日本では有名な歌手のセリフ「お客様は神様です」がサービス業の基本と言われていた中で、これは非常に斬新な発想でした。

 

「内部顧客」すら満足できない者が「外部顧客」を満足できるはずがない!

 

実はタイトルのように和訳すると誤解を受け易いですが、英語の表現では,

Outer Customer (外部顧客) とInner Customer (内部顧客)となります。

VOC研修での目からウロコ的な考え方がこれでした。

「外部顧客」とはショップの顧客は当然ながら、メディアや協力企業などの社外の方々を指すと言う事でそれなりに理解は出来ましたが、「内部顧客」とは社員お互いが顧客であると言う発想で、上司にとって部下は顧客、部下にとって上司は顧客、同僚もお互いに顧客ということなのです。

 

要は、「内部顧客」に満足を与えることが出来ないものが、「外部顧客」に満足を与えることが出来るはずがない。ブルガリの顧客はそれなりの人々ゆえ、ショップスタッフの作為的な表情や、売らんかなの態度は一目で見破ってしまう。社員がこのVOC研修の教えに基づいて、それぞれの会社での生活が充実していれば、  その充実感が自然に態度に現れ 「外部顧客」に伝わる。 ブルガリの顧客はそれを期待しているのだ、 というものでした。

33回マンシングウエア東海クラシック・優勝の藤井かすみプロに優勝副賞のブルガリ時計(パネ       ル)を渡す筆者、但し文中の内容とは全く関係ありません
33回マンシングウエア東海クラシック・優勝の藤井かすみプロに優勝副賞のブルガリ時計(パネ ル)を渡す筆者、但し文中の内容とは全く関係ありません

話は変わりますが、日本でのテニスやゴルフの優勝者インタビューの風景。

勝利者がインタビュアーに答えて、「うれしい」を連発し、時には涙を流すほどの喜びようで、感動的なシーンです。

 

一方、欧米では、勝利者は必ずと言っていいほど、決勝戦やプレーオフでつい今まで激闘をした相手に言及し、自分はたまたま今日は運が良かったというような言い方をして相手をたたえます。世界を転戦してきたクルム伊達選手や一部のプレヤー以外で、残念ながら、このようなセリフは聞いたことがありません。                                                         何が違うのでしょうか?

 また、ガッツポーズについて、アメリカのメジャーリーグで、ホームランを打った打者が派手なガッツポーズを見せることなく、淡々とダイヤモンドを一周します。勿論、これにはあとで相手から必ず報復されると言う慣習がありますが、日米の野球の大きな違いです。

 日本でも似たようなケースは剣道や柔道。国際スポーツと化した柔道では最近は随分と乱れて正常化を叫ばれているそうですが、剣道ではガッツポーズ的なそぶりを見せるとそのポイント(一本)が取り消されると言います。

 

その心は RESPECT ( 相手への敬意 )

 

 ブルガリのVOC研修のポイントは RESPECT でした。

 

前項のインタビューの例も、謙虚さを美徳とする日本では、阿吽の呼吸、わざとらしい、という気持ちが優先するのでしょうが、国際社会の舞台では人種も国籍も違う相手にRESPECTの気持ちを伝える方法は言葉や態度で明快に表現する他はないわけです。優勝コメントでの相手への言及はまさにそれであり、打者のガッツポーズは相手投手に対する敬意の欠如ということになりましょう。

 

研修では、社内で相手へ敬意を持つことを強く求められました。

上位者が強いという当然の上司と部下の関係において、日常の生活でも、更に、叱ったり、叱られたりの場面でも、この気持ちがベースにあれば人間関係に大きく齟齬をきたすことはない。人間関係がうまく行っている会社の社員は、身に付いたRESPECTの習慣を自然体で外部に対して表現でき、当然顧客に対して作為的でない心からのウエルカムをすることができる と言う論法です。

 

 例えば、ショッピングで販売員がにこやかに対応してくれることは心地よいものですが、販売員が横を向くや、或いはこちらが売り場を離れようとするや、その笑顔が消えてしまう場面に良くお目にかかります。これは明らかにその場限りの作り笑顔での対応で心がこもっていない証拠であり、私はその世界に居たものとして、ついそこに目が行き、きっとここは社内間の販売競争がさぞ激しいのだろうと余計なことまで考えてしまうのは困ったことです。

 

RESPECTの心を養うために、まずグループにおける結束を強化

 

ブルガリは相手に敬意を持つ最善の手段として、先に述べた<ファミリー意識>をあらゆる機会を通じて高めようとしました。あとの稿で述べるチームワーク研修、グループ全体のコンベンションなどなどがそれでした。

 

その一つの例として、’975月初め、世界各社から店長以上が集められたヴェニスでのインターナショナル・コンベンションでは、VOCのテーマの下、参加者全員がそれぞれのファーストネーム入りの真っ赤なシャツを着て、初日は小グループに分かれての研修、二日目はホールで国別対抗のVOC寸劇を披露、あとは恒例の会食とグループ仲間同士の交流を図るものでしたが、真っ赤な着衣といい、盛り上がりといい、カルト集団的な感ながら、「内部顧客」を十分に意識させたイベントでした。 

 

それではブルガリジャパンでVOC研修の成果が確かに上がったかと言うと、これは顧客の評価に待つことになりましょうが、少なくとも「内部顧客」意識の高揚に向け色々な形でチャレンジしたことは事実です。ただ、自分の立場で申せば、部下を叱責するような時に、「内部顧客」の精神が発揮されたかと言うと、必ずしもYesと言う自信はありません。ただ、叱責の最中にチラッとそれが頭をかすめ、最後の致命的な一言を呑みこんだか、最後の最後に何か救いの言葉を言ったか、ということがあったことは事実でした。  <続く>

 20128

                     深 江  賢(ふかえたかし)