NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

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ブルガリと私の回想録 第45回

奇想天外のアンケートで顧客のホンネを知る

― STWC(Small Talk With Customers)というブルガリの手法 ―

“顧客志向”と声高に言う企業ほど口ばかりという現実も

師走に入り、恒例の今年の流行語大賞が決まりました。

「爆買い」は全く順当。「トリプル・スリー」も野球を知らずとも、二人の若者がセ・パ各リーグで達成したスゴイことと知る人は多いはずです。ところが今年のトップテンの中に、なにコレ? という政権を批判する言葉や、ほんの一握りの学生団体の横文字の名前があり、違和感を覚えていたところへ、選考委員長が自らハタを振っていた政治活動のスローガンと、同趣旨のグループ名と判り、マスコミ系の人は公器を恣意的に使うものだ、とあらためて感心。メディアまでが何か鼻白み気味なのか、この大賞の取り上げ方が、例年に比べいまいち盛り上がっていないように見えるのは私だけでしょうか。

STWCならぬイベントでの交流、ソロテンポ時計発表会(97.5)
STWCならぬイベントでの交流、ソロテンポ時計発表会(97.5)

恣意的と言えば、世間で行われているアンケート調査も結構その類のものが多いように感じます。

TVで発表される内閣支持率が局によってかなり差があるのがいい例でしょう。

特にイエスかノーの理由がまさに誘導的。似たようなケースで、電話調査の対象になった時に、こちらの求める理由がなくて戸惑ったことがありました。

前に顧客志向をテーマにした座談会の記事を読んだとき、ある小売業の経営者が「当社はお客様担当の窓口を増やし、定期的にアンケートでご意見をお聞きしては適宜対応している」と誇らしげに話をしているのに、何かヘンと思ったことがあります。わが国の小売業界の常識?と相反する「お客様は必ずしも神様ではない」という顧客対応や、そのために社外(Outer Customer)より社内(Inner Customer)を大事にするというブルガリの思想(回想録6)は、ある部分では業界感覚と相容れないですが、一般的に、トップが顧客志向と口で言いながら実が伴わない企業は、業界人なら一目瞭然で見抜いているといえましょう。

ショップ泣かせのアンケート

96年に入り、そのブルガリがとんでもないアンケートを実施すると言ってきました。ショップでの何気ないお客様との会話を全て収録しろと言うものです。

これがSmall Talk With Customersというアンケートで、略してSTWC。

同、アルミニウム時計発表会(98.5)
同、アルミニウム時計発表会(98.5)

通常のアンケートは、企業側の都合で詳しく聞こうとすればするほど細かく、複雑になり、顧客に時間と手間を取らせます。さらに要らぬ気を遣わせる場合もあり、また買い物でせっかく高ぶった気分を害することも多々あります。お願いするショップ側も余計な神経を使わねばなりません。それに比べて、このSTWCは顧客にアンケートと身構えさせることなく、ごく自然の対話の中で本音が聞けるという良いことずくめの発想でした。

ところが、これには当然ながらショップ側から大反発です。

確かに趣旨は良いとしても、スタッフの苦労を全く考慮していない。顧客との対応はそんなに簡単なものではなく、商品を買っていただくまでに相応の時間がかかる中で、会話を記憶するなんてとんでもない。STWCのために販売と言う本来の業務がおろそかになるのは本末転倒もいいところだ、などなど。

いろいろ議論の末、スタッフ一人一日一言限りと言うことで、何とか店長の協力を取りつけ、片っ端から顧客の言葉を集めることになりました。レコーダーの使用は道義上不可能だけに、スタッフは常にメモの常備は不可欠。結構なエネルギーを使わせたものです。

編集担当者を困らせた方言そのままのレポート

このSTWCの面白いところは、会話のニュアンスを残すために、それぞれ地域の言葉をそのままレポートすることでした。

これが専任者に指名したマーケティング担当を困らせる結果となります。

何しろ当時でも20を超える全国のショップから集まってくる膨大なデータ。ショップ側へは事前に、ポジティブとネガティブに大分類し、それを、製品関連、品ぞろえ、納期、スタッフ対応などの項目への細分類を指示しているとはいえ、すべてに目を通して集約するのは大仕事。その上、方言をそのまま使えということですから、意味不明なことが多々あるのは当然。そのたびにショップに問い合わせる始末で、本社の指示に基づくフォーマットに落とし込むなど、半年近くこの業務に掛りっきりという結果となりました。

グループ会議でジャパン社が得たスタンディング・オーベーション

進めるうちに見えてきたのが、いかにも日本的な一つの傾向でした。

顧客にはあちこちのブルガリ店を回っておられる方が意外と多く、ブルガリに対する期待や愛情、それに叱責や愚痴などなど、直接その店のことと言わずに、殆どが他店のこととして当のスタッフに伝えられたということです。

日本人の95%が“物言わぬ大衆”とか。まさにその通り!

目の前の相手に対する思いやりという美徳なのでしょう。

同 ソウル・ヒュンダイ店オープン(99.10)
同 ソウル・ヒュンダイ店オープン(99.10)

順序が逆になりますが、このあとに行われたベンチマーク調査(回想録44)と同様に、各ショップのスタッフたちはすぐにペースを掴み、実に数々の貴重な意見を寄せてくれました。

 

最も多かったのが商品不足に関するものでした。

94年半ば以降、ジャパン社はV字回復軌道に入り、イケイケどんどんの勢いのなか、マーケティング部の活躍で一挙に増えた広告掲載の話題の商品が店頭に無いという苦情です。要はイメージではなく販売と連動した広告を打つという当たり前のことがブルガリでは行われていなかった!トラーパニ社長の行動はさすが早く、直ちに広告類の切り替えと掲載商品の生産の増強というツルの一声。さらにはSTWCにより、旧態依然としていたショップのウィンドウ・ディスプレイも商品に連動させるというオマケまで付いて、この結果、ジャパン社はもちろんのこと、グループとして売り上げが大幅増となりました。

ヴェニスでユニフォームで勢ぞろいした仲間たち(97.5)
ヴェニスでユニフォームで勢ぞろいした仲間たち(97.5)

明くる97年5月、VOC(Voice Of Customers)のテーマの下に、ヴェニスで開催された3回目のインターナショナル・コンベンション。トラーパニが冒頭の挨拶でSTWC調査におけるジャパン社の貢献を紹介、直接担当した渡辺陽一朗の名前まで披露され、全員からスタンディング・オーベーション。面はゆい一方で、実質データ収集をしてくれたスタッフたちに報い得たという思いでした。

同、コンベンションの後、くつろぎのひと時(97.5)
同、コンベンションの後、くつろぎのひと時(97.5)

裏話をすれば、グループ他社でこの調査にマジメに対応したところは少なく、発案した本社のメンツを日本が立てたということで、これ以降、ジャパン社のグループの中における存在感は更に大きくなってゆきました。(続く)

2015年12

深江 賢(ふかえ たかし)