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ブルガリと私の回想録 第42回

ブランド企業にも見られる“東芝現象”

グループ国際会議(94・5 イタリア・ストレーザ)
グループ国際会議(94・5 イタリア・ストレーザ)

店長の姿勢から見通せる「ブラック・ショップ」への道-

ブランド・ショップのウラの顔

いかにも高級でエレガントなショップのたたずまい。優雅なスタッフたちの振舞いと顧客対応。誰でも一度は、このようなショップでごく当たり前のように買い物をしてみたいと思うのではないでしょうか。

しかしながら、どの世界にもあるように、人が働いている限り、このようなショップにも外面とは違ったウラの顔があるものです。

ブランド・ショップで仕事をする知人から最近二つの相談事がありました。

一つは、高年齢を事由に、規定通りの年末ではなく、最盛シーズン前の11月末に引退を示唆された超ベテランの販売専門職が、自分に付いている大勢の優良顧客へ納得できる引継ぎをするには時間不足で、会社としての配慮が全くないとの嘆きと怒り。もう一つは、ショップの同じチームのメンバーが暫く病欠したために、残りのメンバーが交替制の定休すら取ることが許されず、あまつさえ、店長指示で業務終了前にタイムレコーダーを押してから残務をするのが常態化、みんなのヤル気が著しく低下しており先行き不安だ、というものでした。

顧客あってこそ成り立つのが小売業。それを支えるのが顧客と直接対応するショップスタッフです。特に超の付くブランド・ショップでは、常連顧客になればなるほど個々の販売スタッフと密接に結びついています。

これらブランド企業のトップはこのような「顧客」の認識があるのでしょうか、一方、中間管理職たる店長にモノが言える余地はあるのでしょうか。

 

経営者的に見たこの相談は、いずれも経費の削減という基本的な課題ですが、ここにブランド企業としての「東芝現象」が垣間見えるような気がします。

「業績至上主義」と「上司の意向に逆らえない企業風土」

同グループ国際会議(95・5 イタリア・サルデーニャ島)
同グループ国際会議(95・5 イタリア・サルデーニャ島)

ここでは、ブランド企業に「不適切な会計問題」があると言っているわけではなく、そのような問題で世間を大きく騒がせた東芝の企業背景をブランド企業に当てはめて眺めてみようとしています。

 

「東芝現象」を一言でいえば、「業績至上主義」と「上司の意向に逆らえない企業風土」とでも言えましょうか。

 

少し旧聞ながら、6月11日付・日本経済新聞「大機小機」の抜粋です。

「<思考停止が悪を生む> (前略)不正には「個人的違反」と組織のために複数が関与する「組織的違反」とがある。両者は発生要因が異なり対処方法も変わる。個人的違反は、手続きやルールの徹底といった「命令系統の整備」が解となる。だが組織的違反の主な原因は「属人風土」にあり、何が正しいかではなく、誰の指示によるものかが重視される権威主義に毒された組織風土だ。(中略)

 

組織ぐるみの不正をなくすには、経営者の意識改革と抜本的な体質改善が不可欠だ。現場を無視した上意下達の指示や、形式的な組織論を持ち出し、権威主義による統治で社員を思考停止させる風土から、常に考え、異論にも耳を傾け、多様な意見が言える真のダイバーシティ経営への脱却が求められる。」

このような視点から冒頭の二つのケースを見ると、最初のケースは、ショップの売り上げを引っ張るベテラン販売スタッフの退社は即売上予算の達成度に繋がるだけに、店長自らそれを上司に提言したとは思えず、逆にトップからの指示に唯々諾々と従わねばならぬのはこのブランド企業のどこかがおかしい。店長がなぜその指示に抵抗できなかったのか。まさに上記コラムの「現場を無視した上意下達の指示」ズバリのことです。ここは著名ブランドの六本木旗艦店。理不尽な処遇に敢然と抵抗して、11月どころか即刻退社した当の知人から聞いた話では、9月予算は大幅未達とか。それは十分に予測されたことでしょう。

もう一つのケースは、これが店長の労基法違反という「個人的違反」なのか、トップからの指示(その事実を知っていながら黙認していることを含む)による「組織的違反」なのか。ブランドを代表する銀座本店だけに、ブログやツイッターなどで外部に漏れたりすると、たちまち業界雀の格好の餌食。ブラック企業・ブラックショップの烙印を押されるという事態になりかねないことです。

いずれも、それぞれのケースの店長は何をしているのか、どのような立場なのか、また、その日本法人のトップは外国本社に対しどのような存在なのか、がカギとなります。もっとハッキリ言えば、これらの企業は「イエスマン」の集まりか否か、ということに尽きるでしょう。

店長に期待される“なでしこ”宮間のキャプテンシー

「東芝現象」に縁がないジャパン社年次総会LAC(01.5-6)
「東芝現象」に縁がないジャパン社年次総会LAC(01.5-6)

体格的に劣るなでしこジャパンの活躍に日本中が沸いたFIFAワールドカップ。決勝戦までの僅差のゲームを勝ち抜いたチームを引っ張った宮間あや主将の、得点の度に控え選手の元に駆け寄る姿は見る人に強い感動を与えたものです。

 

私にはこの回想録に度々取り上げた店長という立場が彼女に重なって見えます。

 

共にショップ/チームを任されながら人事権は無く、監督的立場の上司を持ち、売上予算の達成/勝利という目標に向かって邁進する。販売力あるスタッフ/ポイントゲッターだけを優遇すればするほど、逆の立場にあるメンバーにとっては不満がたまり、チームの士気は下がるばかり。非難を承知で言えば、外から見て宮間主将の“見え見え”の行動も、それが素直に受け入れられているのは、いかに彼女が普段からチーム全員に目配りし、チームワークの醸成に努力しているかを示しているのでしょう。

「小売業とは店長ビジネスである」とはまさに至言です。

 

グループとして店長を徹底的に教育し、また優遇し、日本法人は日本人に任せたとばかりジャパン社トップに十分な権限を容認して急成長した当時のブルガリ。その頃に比べ、最近ラグジュアリー・ブランド企業のトップに日本人が少なくなっているのが気になります。このニッチな世界で活躍する日本人が少なくなったのか、或いは、世界的に巨大化したブランド企業が数年で辞めてしまうことが見え見えの、いわゆるジョブ・ホッパーであっても、社員より本社の方を向き、その指示を忠実に実行するトップの採用を優先させることで、このように外国人トップが多くなっている、とするのは穿ちすぎでしょうか。(続く)

2015年9

深江 賢(ふかえ たかし)