NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

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ブルガリと私の回想録 第36回

日本と欧州企業のビジネス会議でのギャップ

-それぞれに事情あり、責任体制の違いで大きな差-

ブルガリ銀座店-披露セレモニーのテープカット-97-12-中央左より-小坂ギンザコマツ社長-筆者-トラーパニ-ブルガリグループ社長-ドミネド駐日イタリア大使
ブルガリ銀座店-披露セレモニーのテープカット-97-12-中央左より-小坂ギンザコマツ社長-筆者-トラーパニ-ブルガリグループ社長-ドミネド駐日イタリア大使

「なぜ日本では会議に大勢の人がゾロゾロ出てくるの?」

OB会ゴルフの帰り道。ハンドルを握る8年後輩といろいろ話をするうちに、ともに外資企業での経験から、会議の在り方、進め方について同じような思いをしたことが分かりました。彼は日本を代表するフィルム会社の開発部門で大きな業績を残し、その後欧州企業に出て、今は外資ベースの個人コンサルタント。メーカーと商社の差はあれ、日本の大企業と欧州企業では、けっこう面白い違いがあり、二人の意見が一致したところを欧州側から少し纏めてみました。

必要なメンバー以外に大勢が出席する

  • 議題に精通する者同士で会議をすれば話も早いし纏まり易いのに、大勢のメンバーがぞろぞろと出てくる。

発言しない人の方が多く、発言しても上位者の顔色を伺いながら発言する

  • 本来は自由発言で、参加者はそれぞれが議題について意見を述べるべきが、上位者が発言したことに対し違う意見が出にくい。
  • 更に言えば、下位者の発言は往々にして軽んじられる。
  • 自由発言を真に受けて上司に異論を述べたひとが、次回の異動で左遷されたという極端な例もある。

なかなか結論が出ない、或いは、結論を出さない

  • 一つの結論を出すための会議であるはずが、結論としてはっきり纏めない。
  • 時間の無駄と思われる会議が結構多い。
  • 決まったことが後でひっくり返るケースが、ままある。

“By When”(期限)を明示することが殆んどない

  • 会議で「何月までに」或いは、「何日までに」というはっきりとした期限が切られるケースは殆んどない。
  • 「できるだけ早く」、「遅滞なく迅速に」、「可及的速やかに」などなど、実に表現が豊富であるが、それは「いつまで?」なのかが分からない。
芸術新潮誌でのイタリア貿易振興会東京事務局長キャッピーニ氏対談-2001-8
芸術新潮誌でのイタリア貿易振興会東京事務局長キャッピーニ氏対談-2001-8
在日イタリア商工会議所ガラディナーでのトラーパニとの2ショット-2000-11
在日イタリア商工会議所ガラディナーでのトラーパニとの2ショット-2000-11

業務に係る責任体制の差

欧米は主に個人ベース、日本は組織ぐるみ

ブルガリの日本代表になって、最初に驚いたのがJob Description(業務の詳述)でした。やるべき業務を抽象的な言葉ではなく具体的に細かく書き上げ、報告するべき相手の名前(直属の上司)まで記す。ついつい抽象的な言葉を使いがちになり、改めて自己の業務を見直し、何が責任なのかを認識するいい機会になりました。これは人事考課の段階でチェックされるポイントにもなり、その後、全社員に対しても同じことを実施。要は、それぞれのやるべき業務を明解にし、責任の所在がどこにあるかをはっきりとさせるという趣旨でした。

一方、日本の場合は組織で動くのがごく普通の姿で、一つの組織を軸として物事を進めて行くために、このJob Descriptionのように、個々のなすべき仕事の具体的な内容や、取るべき責任の範囲まではっきりさせていることはまずありません。責任については一般的には組織の長が取るものとされるわけです。

このような見方をすれば、外資企業人が不思議がる上位者を意識する会議メンバーの姿も不思議ではなくなります。

日本での会議は情報共有の場

更に見方を変えれば、日本では組織で動くゆえに、組織内のメンバーが情報を共有することが非常に重要で、それがチームワークにつながることになります。

 

現実として、私が主催した隔週の定例幹部会では、単に担当部署の報告会に終わらせず、会社の現状を把握するため互いに他部署での活動に敢えて首を突っ込ませるように討議をリードし、月一度の全店長会議は、経費が掛かるのを承知の上で本社に招集し、中間管理者に対しても同じ趣旨を目指したものです。

“By When” の重要さと難しさ

このような彼我の違いの中で、By Whenの習慣だけは、イタリア本社とのやりとり、中でも個人の目標管理制度の実施では、常に求められたものだけに意識して実行するようにしていました。

 

A3用紙にぎっしりと書かれた半年間の個人の実行目標。それぞれ大くくりから始まって具体的な実行目標を細かく記し、右端にある“By When”という欄に何月末までなどと記入します。この進捗状況を自分でチェックしながら進むのが目標管理で、最終の達成度は当期のボーナス考課の対象の一つとなります。

 

ただ正直のところを申せば、“By When”を実行することは中々大変でした。

この目標管理のように自らチェックする方式ならともかく、会議などでのやりとりの中で期限を要求するようなケースでは、まずは忘却防止のために文面にしておかねばならず、その上途中チェックが必要。それが一つ二つならともかく案件が多くなればなるほどフォローに手間がかかり、自らの首を絞めるという結果になりました。

企業風土による一長一短

外国人が最も理解し難い職種である日本の総合商社という企業から、イタリアのオーナー小企業に転身。典型的な日本企業の世界と、超ラグジュアリー・ジュエリーという狭い世界、しかも、その総支配人会議という180度局面の異なる中で揉まれるという稀有な経験(回想録10)の中に身を置くことが出来たことは、私自身にとって実に有意義なことでした。ややともすれば直近の外資企業の流れに自分の思考が偏りがちな中で、このような一つのテーマで改めて比較してみると、それぞれの一長一短が良く見えてきます。

特に、「期限」という一事については、「出来るだけ早く」という言葉は、日本の企業風土が生み出した最高の表現ではないかと思う次第です。(続く)

2015年3

                     深 江  賢(ふかえ たかし)