NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

深江賢に聞く~回顧録スペシャル~
洒落おやじの青春取材記 工藤
特集記事 ANA

2014年12月

ブルガリと私の回想録 第34回

高級ブランド店における「買い手」と「売り手」の力バランス

- 日本と欧米では大きく異なるブランドショップのステータス -

ONとOFFを使い分けできるセレブ、出来ないセレブ、さまざま

モンテカルロ店(1974年オープン時)
モンテカルロ店(1974年オープン時)

ショップには様々なお客さまが来られます。

 

「お前ら、俺のことを知らんのか!」と大声で啖呵を切った映画スター。その種の映画では、チンピラ役からスタートし、今や幹部役をこなす「大物」。

 

「オレが言うのだから、そのくらい負けておけよ」と修理代の数千円の値切りに1時間も押し問答。ベストファーザーにも選ばれた好感度高いTVスター。

 

行くという電話があるだけで、ほとんど仕事に手が付かなくなるような緊張がショップ中に走るというさる芸能界重鎮のセレブ奥さま。来店のたびに、必ずあれこれと文句を並べては店長以下を泣かせるので有名とか。

 

「ウン、マア、そんなところやね。」

見ただけでプロスポーツマンと分かる精気みなぎる偉丈夫。
ショップの仲間は一目でダレと見抜いてざわめくのを尻目に、担当についたセールス「何かスポーツでもなさっておられるのですか?」と、ケロッと質問。宗教法人付属高校から鳴り物入りで投手とともにプロ入りしたスラッガーの答えがこれでした。

 

自分の公の立場を離れ、個人としてショップに来られる方がほとんどの中で、
ONとOFFの使い分けでは様々なお客さまがおられる一方、
TVやステージの演技から人物像を勝手に作り上げ、個人として来られる相手に
つい重ねてしまうのもショップスタッフにありがちな姿でもあります。

 

つい先日のメディアによると、今年の成人式のあと、日本ハムの大谷翔平選手が
同窓仲間との飲み会で、割り勘代五千円を支払ったとありました。
たとえ一億円プレヤーであれ、個人の立場ではごく当たり前の話で、
また、それが同窓仲間の期待するところだったと言うのも当然のことでしょう。
若いながらも、公と私、ONとOFFをしっかりと区別できるこのセンス。
ますます大きな存在になるであろう大谷君の今後に期待したいものです。

日本と欧米におけるブランドショップのステータスの違い

日本では、まずはショップに来ていただく方がお客さま。
たとえその時にはお買い上げに繋がらなくとも、次回は必ず買っていただけると
信じて対応する気持ちと心の余裕。その方の有名無名は勿論のこと、
購入の多寡にかかわらず、全て「お客さま」として平等が原則。

これは超の付くラグジュアリー・ブランドショップでは当然のことで、
私自身も87年にジョルジオ・アルマーニ・ジャパン社で初めてこの世界を体験し、
バブル時代に鳴らしたカリスマ店長から目からウロコの「教育」を受けたものでした。

とは言いながら、それぞれに相手に応じた接客をすると言う
サジ加減がセールスのウデの見せ所。

ブルガリでは、この原則を踏まえながらも、
個性あるセールスたちの自由裁量に任せたことが評価をいただき、
90年代後半の大ブレイクに繋がったことでもありました。

階級社会が存在する欧米のブランドに対する考え方

ローマ店(2014年改装)
ローマ店(2014年改装)

この点、欧米のブランドショップでは大きな差があります。

階級社会が現実として存在する欧米では、超高級ショップに足を運ぶ客層は限られています。

NY時代に軒を並べる高級百貨店とスーパー的な百貨店で同じブランドもので売値が違うことにびっくり。

要はそれぞれの客は絶対にもう一方に足を運ばないことが前提になっているとか。またパリやミラノでは、大衆が行く百貨店のステータスが低く、
高級ブランドは自分のショップを構え、
入り口のドアを閉めて客を選別するというわけです。(回想録28)

厳選されたショップスタッフの社会的地位は高く、ブルガリの例では
ローマ店に勤務すると言うだけで親族までが鼻が高く自慢のタネだったそうです。

知る人ぞ知る ブランド店の流儀と買い物のノウハウ

いま銀座などでの中国人の爆買いを嗤う報道が散見されますが、
70年代の高度成長期に日本人がパリやミラノのブランド店で買いあさった姿を
記憶しているだけに歴史は繰り返す思いです。

サントノーレの有名バッグ店で開店前から日本人が長蛇の列を作り、
開店するや、店側が放り出した残り商品を中味も確かめずに掴んで
キャッシャーに走る姿。海外旅行に出かけることが全てで、
これらの欧州事情などにあまりにも無知な時代でした。

 

先日ラグジュアリー・ビジネスに関して講義した時のこと、
ある学生が「パリで両親と某ブティックに買い物に行くときに、
きちんとした服装に着替えさせられた」と聴講後のレポートに書いており、
嬉しくなったことがあります。

それなりの服装で臨み、相手に商品知識をうまく喋らせるように持ってゆけば、
こちらが驚くほど鄭重に対応してくれるとは、今やブランド店での
買い物ノウハウとして知る人ぞ知るはなし。

人気ボードビリアンのセリフを借りれば「あれから40年・・・」、
日本はこの面ではオトナになったということでしょう。

買い手と売り手は「夢」の世界で共存する

パリ・プラザアテネ店(1979年オープン時)
パリ・プラザアテネ店(1979年オープン時)

ブランドという言葉から、マーク、ロゴ、カラー、デザイン、社名、性能などの他に、あこがれ、カッコイイ、贅沢、優越感、セレブなどが連想されます。

これを踏まえて、ブルガリのマーケ部の新人研修で、「商品を売るのではなく、夢を売るのだ」と言った時期がありました。

人それぞれにとってブランドへのあこがれや思い入れは違っており、あとは顧客の選択に待つわけです。

 

売り手と買い手の力バランスについて、TVコマーシャルが一つのヒントになります。ラグジュアリー・ブランドで、クリスマス時期などの一部の例を除いて、それを打つところはありません。

日常生活に不可欠の商品は、そのブランドと同等の代替品はいくらでもあり、
コマーシャルを打ち続けないと消費者の関心が離れがちになります。
一方、「夢」に繋がる部分は人様々で、ターゲットを絞れず、
TVで不特定多数に呼びかける効果はほとんどないとされています。

 

このような背景から、ブランド世界では買い手と売り手は「夢」の世界で共存するとして、観念的には対等と考えられているのではないでしょうか。

今後とも「買い手」と「売り手」の好い関係が増えることを願ってやみません。(続く)

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深江 賢(ふかえ たかし)