NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

深江賢に聞く~回顧録スペシャル~
洒落おやじの青春取材記 工藤
特集記事 ANA

ブルガリと私の回想録18

ブランドのイベントはアイデアの競いどころ

 

 ブルガリの強みは東京店、ラッピングされたり、スクリーンになったり ―

創業者・ソティリオが戯画にされてしまった! 

ブルガリが商品群多様化のエースとして満を持して世界に問うレザーグッズ。日本でも98年秋にトラーパニ社長を迎え、東京店に大勢の顧客を招いて発表会をすることになりましたが、華を添えるために、年初から横尾忠則画伯に依頼していた画が出来上がってきたのを見て絶句しました。

 

「ブルガリの夢」と題する画は、聖母マリアが幼いキリストを抱くその周りにブルガリのバッグが配され、その留め金に本物の金具が使われているという斬新なものでした。が、なんと、マリアの顔がブルガリVIP顧客でイタリア映画界の大御所ソフィア・ローレン、キリストの顔が創業者のソティリオ・ブルガリになっているではありませんか。あらかじめ画伯には依頼の趣旨を伝え、その求めに応じていろいろ資料を事前にお渡しし、また一方、こちらも横尾画伯に依頼する以上は<直球>ではなく大いなる<変化球>を期待していたのは事実ですが、ここまでとは! でした。

 

「ブルガリの夢」を背に筆者(98.9)
「ブルガリの夢」を背に筆者(98.9)
横尾忠則画伯の「ブルガリの夢」(98.9)
横尾忠則画伯の「ブルガリの夢」(98.9)

 

当日、もちろん横尾画伯はスペシャル・ゲスト。さあトラーパニがどう出るか。前にも書きましたようにB型の強みで「なるようになれ」という開き直りの一方でヒヤ汗の一瞬でしたが、本人はニヤリとしただけ。画伯と談笑されていたのに正直ホッとした次第です。その後、パオロ会長、ニコラ副会長がそれぞれ別の機会にこの画を見た反応は、やはりというか、パオロはムッとした様子で無言、ニコラはNYで若手画伯たちのパトロンをしているだけあって、やんちゃっぽくウインク。このファミリー三羽烏のチェックが済んで初めてミソギが終わった心地でした。

イベントの魅力を左右する<場所>の選定

ラグジュアリーブランドはどこも新製品の発表とか、ショップのオープンとか、その他色々な名目で顧客を招待する機会を作ろうとしますが、そのクラスの顧客は結構それぞれのブランドから声がかかります。シーズンによっては何通もの招待状が重なり、そのすべてに顔を出すことは難しく、そうなると、行く、行かない、の判断基準は催事の内容です。そこがマーケ部隊の腕の見せどころで、キメ手となるのが場所選び。何度も使われているような手垢のついた場所では顧客の食指は簡単には動きません。ドレスコードがブラックタイならともかく、平服では話が別。エージェントの知識をフルに借りて「さすがあのブランド」と言わせる場所を求め、ブルガリでもずいぶん苦労したものです。

 

 ただ一方では、ブルガリには大きなアドバンテージがありました。都心にありながら閑静な紀尾井町の東京店の存在(回想録5)で、私たちはこれを最大限に活用しました。拡大路線に沿って新製品群の発表会を次々とここで催し、ジャパン社のグループ内でのポジションが上がるにつれて、ファミリーたちが次々と来日してイベントを強力に後押ししてくれました。

 

 東京店ではショップの中だけではなく、外側でも斬新なアイデアを見せました。東京陶芸家・辻厚成さんとのコラボ(01.9)ではそのテーマカラーである「厚成紅」の布でファサードをラッピングしたり、写真家・浅井慎平さんとのコラボ(03.11)ではレーザー光線で模様を外壁に投射したりして、招待客にサプライズとともに楽しんでいただきました。

ラッピングされた東京店のファサード(01.9)
ラッピングされた東京店のファサード(01.9)
同じくスクリーンになった東京店(98.9)
同じくスクリーンになった東京店(98.9)
新宿駅前でのB-zero1発表会(99.9)
新宿駅前でのB-zero1発表会(99.9)

文字通り外に出たイベントもありました。今やブルガリの代表的デザインの一つとなっているB-zero1オリジナルの発表会はJR新宿駅前(99.9)。それなりの場所が常識のラグジュアリーブランドのメディア発表会で、ターゲットのヤング層に合わせた親近感のある演出を披露。ビル屋上の巨大スクリーンにもその様子が写されて話題を提供したものです。

六本木スイートベイジルでの「ブルガリ・ナイト」

新作香水BVL(00.9)
新作香水BVL(00.9)
BVLのTシャツも着たスタッフたち(00.9)
BVLのTシャツも着たスタッフたち(00.9)

同じくバンドメンバー(01.9)
同じくバンドメンバー(01.9)
総立ちのゲスト(01.9
総立ちのゲスト(01.9

 

協賛イベントで楽しかったのは、村上龍さんが10年ほど続けて招いておられたキューバンバンド・ライブの冠を00年から3年させていただいたことでした。場所は六本木スイートベイジル。その一日を「ブルガリ・ナイト」と銘打って顧客を招待、ライブハウスとしてはむしろ本家のNYより広いといわれる十分なスペースでキューバ・サウンドにどっぷりと浸っていただきました。

 

レセプションでは当時人気上昇中のパフュームの新製品BVL (ブルー) をフィーチャーしたTシャツをスタッフ全員が着用、またステージでもバンドのメンバーに同じシャツを着てもらい販売促進。一方フロアでは、飲食タイムが過ぎアップテンポのリズムが始まるとたちまち身体が反応、村上龍さんが先頭を切ると、あっという間にハウス全体がダンスのるつぼと化すというのがいつものパターンでした。私もすぐにノル方で、ご招待の方々と共にフロアで大いに盛り上がったものでした。

ノブレス・オブリージュの正解と誤解

ラグジュアリーブランドのビジネスをする限り、ノブレス・オブリージュ(英語でNoble Obligation) なる「持てる者の義務」を常に意識する立場にあります。ジャパン社を設立して初めに経験したのが、WWF(世界自然保護基金)と提携し、その売り上げの一定割合を基金に寄贈する「ナチュラリア」テーマのジュエリー (回想録2) でしたが、その後グループとして色々な形でその趣旨に沿った貢献の場がありました。また一方、ジャパン社自身でも、皇族・各国大使夫人方が毎年主催される各種のチャリティ活動や、阪神淡路大震災、エイズ救済基金などなど、イタリア本社の指示もあり、出来るだけ名前を出さないようにしながら、しかも継続できる範囲で、協力させてもらったものでした。

 

最近よく話題になるCSR (企業の社会的責任)はこれに通じる考え方ですが、十分な利益を上げながら操作して法人税をまともに払わない企業が存在する一方、各種チャリティの名の下の売名行為はけっこう盛んで、欧州に起源を発するノブレス・オブリージュは日本ではまだ道遠し、と言わざるを得ないのでしょうか。例えば311の被災地への援助に際し、寄付金額をわざわざメディアに公表するとか、自らの芸で被災地を元気づけるのにTVクルーを引き連れてゆくとか、その行為自身は何もしないよりははるかに立派ですが、オブリージュの本来の趣旨に沿って、企業としての当然のように社会的責任を粛々と果たし、また芸能界でもメディアを避けて大きな援助を継続して実行されている方々の存在は、後で知ることになるわけですが、まことに喜ばしいかぎりです。(続く)

 

 

20138

                                                                                         深 江  賢 (ふかえ たかし)