NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

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ブルガリと私の回想録12

 世代を超えた コミュニケーションの難しさ、これ永遠のテーマ


 ― 「パワハラ」と「指導・教育」の違いはどこにある? ―

◇「部下の叱り方講座」がメシのタネになる時代 !

最近日本の柔道界で暴力行為と併せてパワハラが問題になっています。また、先日NHKTVで、部下の叱り方に悩む企業相手にコンサルタント先生がロールプレイをしながらそれを指導している場面を見る機会がありました。それぞれ言い分はあるでしょうが、上位者が良かれと思って指導・教育したことが下位者にパワハラと受け取られると、ピラミッド社会において確かにうかつにモノが言えなくなってしまい、秩序の維持が難しくなりかねないこともあります。

 その違いは、コミュニケーションの在る無しに尽きると言っても過言ではないでしょうか。回想録11に書いたロンドン・オリンピックにおける水泳チームの姿は内部告発のあった柔道チームとは天と地の差があり、「チーム・ビルデイング」の基本がスムーズなコミュニケーションにあることを示しています。

評論家先生方もこのようなケースでは「上司は部下とコミュニケーションを取るべきだ」とのたまうのが常ですが、残念ながら、HOW=どのようにすべきか、に言及される方は数少ないようです。

 

◇目線を下げる ― ジェスチャーも繰り返せば本物になる

至ってプリミティブなことですが、私が常に意識していたことは「目線を下げる」ことでした。上位者が上から目線で物を言っている限り、真のコミュニケーションなんて出来っこありません。また、いくら目線を下げると言葉で言っても、所詮は上位者であることに変わりは無く、下位者から口先だけと取られるのがオチ。どうせそうなら、初めから「これはジェスチャーだ」と自分で割り切ることでした。現役当時、まずは私自身が上位者の「権威」にカバーをかけることで<目線を下げるジェスチャー>をすることから始めました。

最も手っ取り早いのがスキンシップ。いわゆる声掛けです。廊下ですれ違う時、エレベーターに2人で乗り合わせた時など、相手はこちらがトップと意識しているので、こちらから何か声をかける。こちらは全く忘れていることでも、相手は意外に覚えています。ノーベル賞の山中伸弥教授のオフィス出勤時の様子をTVで見ましたが、だれかれなしに気楽に声をかけておられ、部下の評価もなかなか好意的でした。また、肩書で呼ばせない。もし肩書で呼ぶケースがあるとその場で<さん付け>に言い直させる。社長室のドアを開けっ放しにし、アポなし飛び込みを歓迎する。秘書には評判が悪いですが、秘書という「関門」を作らない。出張、客先訪問に部下を帯同せず一人で行く。要は取り巻きを作らない姿勢を見せる。親会社のスジ違いの負ケテクレ要求を社員にわざと聞こえるように大声で拒絶する。宴席では上座を作らない、などなど。

たかがちっぽけなジャパン社の一つの例、されど何処の場合でも、トップの行動は見られて無いようで見られているものです。たまに耳に入るこそばゆいような評価が大きな励みになったことでした。

 

◇わずかの福利厚生費の捻出で、コミュニケーションを促進

テニス部の仲間たち (96.9)
テニス部の仲間たち (96.9)
同、夕食のひととき (97.7)
同、夕食のひととき (97.7)

ダイビング部 (97.6)
ダイビング部 (97.6)
未使用の筆者のPADIライセンス
未使用の筆者のPADIライセンス
ルフ部 (00.11)
ルフ部 (00.11)

さらに社内のコミュニケーションの大きな潤滑剤が、改めて紹介する社員旅行とクラブ活動でした。クラブ活動は一定の部員数と部費の徴収、半期毎の決算を条件に会社が活動費を補助、積極的にこれを推進したことで、ゴルフ部・テニス部・ダイビング部などが誕生。会社として福利厚生費の予算内の小さな負担で、予想以上の大きな成果が挙がりました。

 小売業ではショップが各地に散らばり、スタッフは毎月のローテーションによって休みを取るのが常態ですが、これをトップ指令として各所属長にクラブ活動に対する理解を要請、地方からも参加しやすいように計らうと共に、交通費はクラブ負担、企画は1泊2日を原則としたこともあり、普段なかなか縁の遠いショップのスタッフ同士や、本社スタッフとの交流が図れたのは大きな収穫でした。いずれも昼間だけではなく、食事会、カラオケ会などが必ずついており、参加メンバーのコミュニケーションは上々、私もまずは参加を前提にしていましたのでこの効果を満喫したことでした。

 ゴルフ部についてはまた別稿で述べますが、現在OBになっても仲間たちと続いており、テニス部は毎年の合宿には必ず外部コーチを招いて技術を磨き、ダイビング部はPADIライセンスの認可資格を持つ管理部長がいて、彼の指導のもと、多くの社員がライセンスを取得するなど、活動は実に活発でした。余談ですが、私も伊豆の研修所でPADIを取りましたが、字義通りトシヨリの冷や水と家族の猛反対に遭い、一本も潜らず今に至っています。野球部には元野球部エースの入社もあって大いに期待しましたが、こればかりは人数が中々揃わず、グラウンド確保も厳しく、結局は形にならなかったのは残念です。

 

◇コミュニケーションには、体力が必要 !?

一つのショップの忘年会などに出かけると次々と他からもお呼びがかかります。賑やかなのは大好きで、アルコールも弱い方ではないので、殆どのお呼びにはノコノコと出かけ、12月などは忘年会のハシゴでまさに体力勝負でしたが、すべてはコミュニケーションのチャンスと割り切っていました。すべて会費制ですが、当然みんなの期待は二次会。こちらもそれが「ジェスチャー」の絶好の機会として、勘定時のレシートはその場で破棄、幹部クラスにもその場で最上位の立場の場合には、これを実行させたことでした。

大阪店の忘年会でサンタ役の筆者 (91.12)
大阪店の忘年会でサンタ役の筆者 (91.12)

社員たちとの日常業務のコンタクトの中で、正直パワハラ的な指導はザラにありました。しかし社内やチーム内でコミュニケーションを繰り返すことによってお互いを知り、その発言の真意などを理解できるようになれば問題化するものではなく、柔道騒動もこれがあればおそらく避けられたのではと思います。

 

◇世界における「自己主張しない日本」という定評

一昔前の「ホームアローン」という映画で、主人公ケビン君が家族の前で大人顔負けの意見を述べるシーンが印象的でしたが、今の日本では、家庭でも、学校でも、企業でも、自分の意見を述べるという場が殆ど無いと言っても過言ではないでしょうか。そのために、社会人になっても、親バナレできず、お友達感覚の仲良しコミュニケーションの世界から抜け出せず、大人の社会に適応できない若者が多いことも事実です。これは<長幼序あり><沈黙は金>を美徳とする昔からの教えのせいもあるのでしょうが、とにかく、ちょっとでも目立とうものならイジメの対象になる、下位者がモノを言うと黙ットレと聞く耳持たず、ということで、学校でも社会でも自己主張しない方が賢明だという日常習慣がいつの間にか身に付き、ひいてはこれが日本という国の世界における定評になりつつあるような気がします。

私はブルガリグループでコミュニケーションと言うことを身をもって体験した幸せ者ですが、今や社会の各層でコミュニケーションの重要さを再認識し、それぞれの段階で真剣な対応が求められるのではないでしょうか。(続く)

 

2013年2月

                深 江  賢(ふかえ たかし)