ブルガリと私の回想録 10
大躍進ブルガリグループの “七人の侍”
― カンヅメ戦略会議から生まれたエリア総支配人仲間のチームワーク ―
会議には「アタマ一つ」で来るべし
94年はじめに宝飾・時計部門トップの交代があり、新しいボスのマッシモ・マッキがブルガリ・アメリカより着任、最初の総支配人会議の招集での要項が今までの常識をブッ飛ばすものでした。
✓会議の位置付けは部門の戦略会議
✓会議に準備・資料など一切不要、「アタマ一つ」あればよい
✓期間は一週間、日曜日中に到着・土曜日朝に解散
✓期間中は個人行動不可、但し水曜日は完全オフ
✓服装はカジュアルウエア (ショートパンツ以外は何でも可)
グループは93年にエリア制を敷き、北米・ラテンアメリカ・北太平洋・南太平洋・欧州(含むイタリア)南欧&中近東の6エリアに分けて、それぞれに総支配人(Area Managing Director)を置くことになり、私は北太平洋エリア(日本・韓国・グアム・サイパン)総支配人を兼務することになりましたがボス・マッキと6人で構成されるこのカンヅメ会議がその後のグループの大ブレイクの起爆剤となり部門の活動全てをリードすることになります。
とにかく外資本社との会議は準備万端の上に資料を基に、いわば<差し>でやるのが常識。まして本社との会議にカジュアルウエアなんて想像もつかなかい時代だけにこの招集要項は青天の霹靂。
まして会議に指定された場所がいわゆるリゾート地だったのでまたまた驚きでした。
討論に不慣れな姿に、仲間の暖かいアドバイス
最初の会議。前日の中に指定されたホテルにチェックイン。受け取ったアジェンダにも議題は無く、訝りながら月曜の朝に会議室に入ると、随行してきた本社スタッフによりテーブルの上に<今日の議題>なるメモが置かれていました。
そしてマッキはウエルカムのあと、「この会議は宝飾・時計部門の最高経営会議と位置付けるので各々エリア代表としてではなく部門トップとして意見を述べてほしい」との趣旨説明があり、会議が始まりました。
しかしながら、商社時代を含め、上下関係の会議が常態であった私にとって、対等で議論し合うことがこんなに難しいものかということでした。悲しいかな、提案される議題について中々口を挟めない。
とにかく人の話すことがいちいちもっともに聞こえ、その通りなどと思っているうちに会議が進んでしまう。結局これといったことを話せないままに終わった2日目のあと、欧州担当のユルグ・アリスパックが見かねたのか、そばに来てアドバイスをしてくれました。
「タカシ、頷いてばかりではダメ。何でもいいから口を出すことだよ」と。
“日本人の顔をしたイタリア人”とは?
この会議はマッキ在任の99年終わりまでに全部で13回。ほぼ年2回、それぞれのエリアを持ち回る形でロンドン・ジュネーブ・ナパバレー・シンガポール・マイアミ・淡島(駿河湾)・香港・ドバイ・サトルニア(イタリア)・マドリード・マイアミ(別地区)・ヌシャテル(スイス)・ソウルで行われ、議題も商品・店舗・販売・価格・マーケティング・人事・教育など部門経営のあらゆる分野にわたりましたが、いつの間にか <日本人の顔をしたイタリア人>と冷やかされるほどに会議に慣れ、仲間に溶け込んで行けたのも、全てはこの時のユルグのアドバイスあってのことでした。
“七人の侍”とはこんな仲間-そのプロフィール-
■マッシモ・マッキ(ボス):イタリア人。親分肌の情熱家、議論で熱くなることザラだが切り替えが見事、どんな場面でも人に険しい顔を見せたことが無い気配りの人、ヘビースモーカーで酒が強くジョニ黒オンザロックWがご指名
■ユルグ・アリスパック(欧州):ドイツ系スイス人。穏やかな紳士、話に説得力あり、サイクリングが趣味でオフには一人で遠出、酒が進んだマッキにユルグの語尾変化は「アリスパック・アリスピック・アリスポック」などとからかわれてもニコニコしている、残念ながら数年前に故人に
■ファブリツィオ・ペンタ(南欧&中近東):イタリア人。マーケのコンサルタント出身、上流階級の雰囲気と人柄、オフの会食時にみんなに唆されて花を捧げて女性のナンパを買って出るひょうきんさあり、サウスポーのテニスが強い
■アリーゴ・ベルニ(北米):イタリア人。マッキの片腕、理論派で常に冷静、ニックネームはプロフェッサー、プレゼンの手法や討論のテクニックなどをメンバー全員が彼から学ぶ
■パトリック・ドゥシャン(ラテンアメリカ):フランス系ブラジル人。リチャード・ギアばりのイケメン、前がティファニーの代理店で時計のプロ、マイペースながら存在感大、元レーサーでオフ時のゴーカートレースで大差はさすが
■マウロ・ディ・ロベルト(南太平洋):イタリア人。ブルガリNYにドアマンとして入社以来ここまで来た立志伝的存在、人柄が最高で笑顔も素晴らしく女性陣にモテモテ、日本びいき、後に本社・ジュエリー生産部門トップに異動
■タカシ・フカエ(北太平洋):日本人。素晴らしい仲間たちとの付き合いはそれぞれが退職後も続いている、、、、、以下略
カンヅメ会議の一週間の行動パターンはまさに男たちの合宿生活。
朝は自由ながら、昼は7人がテーブルを囲み、夜は車に分乗して地元のレストランへ。夕食が終わると
必ずホテルのバーで仕事以外のもっぱら文化・歴史・芸術・スポーツ・音楽、時にはメンズ専科のおはなしなどに花が咲く。 男同士でお互いにハグし合う習慣が身に付いたのもここでした。
これでこの仲間たちの絆が強くならないはずがありません。
まさにボス・マッキの狙いはそこにあり、まずは部門トップのこの七人がカッチリとチームワークを固め、次に部門をあげ、ファミリーも巻き込んで、チーム・ビルディング作戦が展開されることになります。(続く)
2012年12月
深 江 賢(ふかえ・たかし)