NAGASAWA Magazine|ながさわマガジン

フランス香水紀行・・第10章 編集部

大地が香るインド      星谷 ともみ

濃密な香りの層がインドの夜を満たしている。

ヒンズー、ジャイナ、バラモン、仏教‥‥あらゆる宗教の祭式を彩る香り。

僧衣に焚きしめられた香り。

王の全身を清める香り

美しい女たちの衣服にとって代わる香気のベール。

さらに召使い地を這う人々、草木や風も…‥‥、インドの全風景が、

芳香の微粒子に覆われる。

                  星谷 とよみ

ムガール帝国、インドに開かれたイスラム帝国こそ、インドの香り文化を名実ともに開花させた源である。

さらにアラビア人の交易網が、東西の香りの道を交差させ、西洋も香りの宝庫、インドを知ることになった。

 

ムガール帝国代々の王は、花の王でもあった。

花の精としての香りをこよなく愛した。

睡蓮、水仙、薔薇、桃、幾種類もの香草、香樹・‥‥。

王たちは花木をふやし、精油を抽出し、インドを香りの王国にした。

インドの人たちは朝に夕に、喜びのときも悲しみのときも香りともに生きる。

夏の休暇を自国インドで過ごすときは、ラベンダーのコロンを持参する。

 長女のデァ セティさんは、現在、イギリスの大学に学ぶ。

マロニエの葉が、日に日に舗道に舞い下りて秋深くなるパリ。

その高級住宅街の一角にあるインド大使館に、駐仏インド大使、ランジット・セティ氏ご一家を訊ねた。官邸の荘重な扉を開けると、ほのかな白檀の香りが迎えてくれる。

マダム・インドゥ セティは優雅なインドのイヴニング、マドモアゼル・ディア セティは折しも発表されたばかりの、ジャン・ルイ シェレルのオートクチュールを身に纏う。“インドの夜„と名付けられたこのドレス、花なら早朝、人知れず咲いたばかりの蓮の花、香りにたとえるなら、摘みたてのジャスミンにも似た清らかさ、インドは世界最大のジャスミン輸出国です。

たに、薔薇、ベチバー、チェベルーズなども幅広く栽培しております。

インドでは何世紀前からこれらを使ってきました。

我が国が現在、世界でも有数の香水の原料生産国あることを誇りに思っています。インドの地形や気候は、香料植物の育成に向いています。

ヒマラヤ山脈からインド洋にいたる起伏に富んだ自然のすべての恵みです。

大使の深くて遠い目の中にインドが香る。

マダム・インドゥ セティによると、多くの書物や経典を通じて人々は香の使い方や効用を学んできたという。

例えば、朝の香浴、全身に湯を浴び。髪と頭皮にペースト状にした香料をすりこみ、すすぎ、さらに香油を全身に塗りマッサージをする。

若い娘たちにとって香りはもう一枚の衣服と同じだ。柔らかな曲線を描くヒップは絹織物で覆われ豊かな胸を飾るのは白檀の高貴な香り、インドの女性たちはカーマス―トラの昔から、香りのお化粧術にたけていた。

白檀はとりわけ良い香りを長く放つので、今日まで珍重されている。

この樹は別の樹に半寄生して生育する、親樹の養分を吸収し続け、ついには親樹を倒してしまう。この香りの豊かさは、練り香水に、香炉用に、あらゆる化粧用に使われてきた。

「「私たちの娘時代、香料や練り香水、香油は化粧に欠かせないものになっていました。今は勿論香水を使っています、香りの好き嫌いというより、自分の肌に合うものを選びます、香りを肌にすりこんできたインドの歴史がそうさせるのです」マダムの肌に夜の帳が下りてくる。、香りはもう一枚の衣服と同じだ。柔らかく曲線を描くヒップは、絹織物で覆われ

豊かな胸を飾るのは白檀の高貴

インドの女性たちは、カーマスートラの昔から、香りのお化粧実に長けていた。白檀はとりわけよい香りを長く放つので、今日まで珍重されている。

この樹は別の樹に半寄生して生育する。

大使一家

香港、中国、ドバイの大使を経て、現在、駐仏インド大使を務める、ランジット・セティ氏ご一家。マダム・インドゥ・セティはフランス香水もうまく使い分ける。

NY・ソーホーで人気のペチバーの小箱、

ニューヨークからインドへ、インドからニューヨークへ、熱いメッセージを送り続けるアーティスト、モトエ・ラングマンさん、コラージュ・アーティストの彼女は、初めて訪れた国インドに魅せられて以来、この国に通い続けている。インドの伝統織物に新しいファッションの息吹を与えるデザイナー、モトエのショールやテキスタイルの作品は、ニューヨークのファンを魅了している。「私がひきつけるのは、インド全体に立ち込めるあの香りの層かもしれません。ガンダーラのガンダというのは、サンスクリット語で「香り」の意味だと土地の人に聞きました。カシミールはジャスミンの自生地として有名ですが、村の古老や職人は、私に彼らの香りの知恵を教えてくれました」

モトエさんが最も感心したのは、ベチバーというイネ科の植物の使い方、根の香りは、グリーンノート。香調は、草いきれ、青い風、樹の香り、インドの人たちは、ベチバーで簾や、衝立をつくる。暑い日はこれに水をかけ、香りをたて、涼を呼ぶ。

もう一つの知恵は、シソ科のバチュリ。人々はその葉と茎を乾燥させ、細かく刻んで子袋に入れ、衣類やショールなどの虫除けにする。

パチュリの精油はウッディでスパイシー。男性用の香りの代表的なエッセンスでもある。

インドを旅するうちに、モトエさんの手元に数えきれないほどの香水瓶が集まった。デリー、ハイデラバード、モズレムなど立ち寄る先の路地で香料とともの売られていた。

ハルシンガー、ハニーサックル、ジャスミン、マグノリア、ロータス、ナイトクイー・‥‥。

手作りの瓶は一つ一つが違う形、香りもまたひとつ、ひとつが個性的である。

四十歳を迎える直前、モトエさんは待望のベビーに恵まれた。

名前は明日香、自分らしく香る人に、明日を見つめ合って生きる人になってほしい、そんな思いを込めて、母は「明日香」という香水を調香した。

ベチバー、ハニーサックル、他六種、インドの香料でレシピを作る。

誕生と共に自分の香りを持った明日香は七歳。初々しさ香る菊節句である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コラージュ・アーティスト・モトエ・ラングマンさん。

       モトエさんのインドの香水瓶コレクション

インドの香りは、インド人の人々の細胞に、

いみじみとはいりこんでいる。

神々との邂逅、そして得られる安寧、

現実の猥雑さ、

日々の咆哮‥‥。

そこからするりと、サリーを翻して、

とおりをわたるようにすばやく

人々は香をまとう、心の襞の数だけ、

香りがある、瓶がゆれ、鳴る。

悦びの、歓びの、香りはどれ?

 

 

企画・構成・nagasawamagazine・編集部

企画・制作・取材・写真・婦人画報社・編集部 ・星谷ともみ・永澤洋二

掲載・1994年・10月号