マスター・オブ・ワインを持つ男
ネッド・グッドウイン Ned Goodwin
ANAワインセレクションで出会った男がいた。
イギリスうまれオーストラリア育ち日本を本拠地として活躍しているワインの天才だ。スタイルは外人だが言葉は、完璧な日本語を話す。
ワインでの世界の最高峰に位置している・マスター・オブ・ワインの称号を持つ男だ。
ワインセレクションを離れて別の日に、インタビューした。
改めて、とてつもないワインの世界を知る男だと感じた。
ダンディで、親しみを感じるマスター・オブ・ワインの称号を持つ男、ワインをこよなく愛す、ネッド・グッドインだ。
ワインを知る人たちが、よく言う、“ソムリエ”という名称はあくまで仕事上での名称、語源はフランス“レストランの給仕人”とある。
ゲストたちの好みのワインを選ぶプロウエイターでもある。
ワインを知る世界の最高峰に位置する名称にマスター・オブ・ワインとある。
その頂点に位置する“とてつもない男”ネッド・グッドイン。
ムービースターの雰囲気を醸し出している。
話を聞くうちに、日本のワインエンターテイメントはこの男が変えてしまうのではないかと感じてきた。
日本人は、ワインが好きだ、一時期の猛烈さはなくなったが、依然としてワイン愛好家は多数いることには間違いない。
11月、解禁の“ボジョレー・ヌーボー”のニュースがそれを証明している。
パリの大学で美術を学んでいた、その時までワインに対する興味はなかったと話す。「建築物が造られていく過程、奥の深いものに興味がありました、多分父が工業デザインを手掛けていたことで、僕を刺激したのだと思いますが・・」
なぜワインの道に「同じ産地の同じマスターのワインを箱で買います、12本入っています、しかし、1本1本抜いて飲むとそれぞれの個性が違います」
生きていると、ワインが叫んでいるんですね、と付け加えた。
「同じ畑のブドウから生産されているのに、香り、味、舌触り、微妙に違います、そして、僕ですよ、私なのよと、各々のワインが叫んでいるんですよ、ボトルの中身が、主張しているんです」
「そう叫んでいるワインに感じたんです、魅せられたんですね」
そして、その時勉強している建築物が作られていく過程と似ていると思った、それで、感じたんですね、いま自分が直接に携われることがワインにある、そう神が教えてくれたんですね、そこから興味をいだいていったと話してくれた。
ワインの道に入ってからは相当の勉強を重ねたのだろう、世界を歩きワインを徹底的に追及していく、バー、レストランで働きソムリエの資格は勿論、それ以上のものを目指していくことこそ僕の役目だと。
ニューヨークマンハッタンのバーで、今後の仕事を考えていた時にワインの最高の資格を取ること、マスター・オブ・ワインにあると深く感じた。
それから超難解の試験に向けて7年間夢中で勉強をしました。
実はマスター・オブ・ワインを目指した裏にはこんなエピソードがある。
ネッドは当時、NYマンハッタンの著名なレストランバー仕事をしていたが、あまり興味が湧かず仕事に飽きていた、辞めたいのだが現場のトップであり、人気の高いネッドを簡単にはやめさせてはくれない。
それでマスター・オブ・ワインになりたいので勉強したいという理由を話しいて無理に辞めさせてもらった。本当は辞めさせてくれるなら、どんな理由でもよかったのですが、・・、と笑いながら話してくれた。
マスター・オブ・ワインの資格を取った後、多くのワイン関係から仕事の話が舞い込んできたことは当然、忙しさも半端ではなかったという、その後日本に魅力感じて、日本でのワインに入りこんでいく。
しかし、ネッドが日本に来たことの本当の理由は、日本が大好きだということと、日本の彼女が現れたこと、仕事のことなどの理由もあるが・・・本当のことはわからない。
「僕はいま、日本に住んでいます、大好きです」
素敵な奥様は日本レディ、かわいい二人の子供たちとは英語と日本語で会話している。
「日本の友達とよくワインを飲みます、皆さん、とてもお行儀がいいですね」
巧みな日本語で話すネッドは完全に日本人だ。
「レストランなどでよく見ることなのですが、ソムリエが選んだワインを素直に、美味しそうに飲んでいるのを見ていると僕は嬉しくなりますね」
優しい笑顔で話すネッドは日本がスゴクお気に入りだ。
インタビューに戻ると、急に厳しい言葉が発せられる。
「ヨーロッパ、アメリカでワインを飲む人たちは、すごく厳しい評価をワインにぶつけます、好き嫌いがはっきりしていますね、だから、美味しくなければ“NO”を出すし、美味しければにこやかに、“YES”です、評価がはっきりしています」と付け加えた。
我々は、ソムリエから進められたら素直に黙って従ってしまう、要はまだ、ワインをよく理解してないからなのだと、感じた。
ネッドが僕に何かのメッセージを伝えているようにも聞こえた。
「日本でワインを飲まれる方はシャブリがお好きですね、レストランでもシャブリを選んで出せば皆さん満足しているようです」
確かにワイン輸入量のうちブルゴーニュー(Bourgogne)のなかで大半を占めているのが、シャブリ(Vig noble de Chablis)だ。
ボルドーも含めて我々日本人は名のあるワイン、流行のワインがお好みだ。
ネッドの言葉に含まれている“ワイン文化”はヨーロッパ、アメリカなどからみると日本は確かに遅れているかもしれない。
「ソムリエたちも先輩のソムリエから進められるワインを重視しているようです、決して悪いことだはないですがもう少し自分だけのワインバリエーション(Variation)を持っていてもいいのではないでしょうか」
ワイン視野を広げるネッドの心の声がそう言っているように僕は聞こえた。
「今回のANA・ワインセレクション・2014で選ばれたワインは、すべて最高です、逸品ぞろいです、評価します、僕が初めて参加したワインセレクションから比べるとすごい進歩です、しかし僕の意見としてもう少しワインの産地を広げるべきですね」
「ワイン輸入責任者有井さん、ソムリエ井上さんとのチームワークは確かにさいこうです。そしてみなさん素晴らしいメンバーです」
ANA担当責任者、有井 努は今回ANAワインセレクション・2014・には新しい産地の風を入れましたと、Nagasawamagazine・10月号で答えてくれている。
有井がいう新しいワイン選考傾向も世界ソムリエの最高の称号を持つ、ネッドの参加があったことは歪めない。
これこそが日本のワインカルチャーの大きな進歩だろう。
「地中海、太陽が燦々と輝くイタリア・ワイン勿論スペインもいいワインがあります、深みと味わい、香りも素晴らしいです」
ネッドはワインに対する日本人の思いを変えていく情熱を僕は強く感じた。
元々、日本人はワインと肌が合わないのかもしれない、これは僕の私見だが、お米文化で作られた日本酒は肌に合ってもブドウで出来るワインは、まだ日本人にはなじめないのかもしれない、僕だけの見解だが。
しかし、これからワインと付き合っていくのには、重要で大事なことだろう。
ネッドは、日本にきてからワインの美味しさ、味わいの深さなどを、多くのイベントを通して話、語ってきたが伝えることがとても難しかったと。
まだ、日本は“ワイン文化”が完全に根付いていないということなのかもしれない。
今、若者たちの中では“ワイン文化“は完全に根付いている。
「僕は、日本のワイン文化を日本のソムリエたちが作ってほしい、そう思います」
ネッドはイギリスの歴史の中で生まれ、オーストラリアの文化の中で育った。
そして世界のワイン文化に触れ体験し乗り越えてきた。
彼の言葉は貴重で重い。
日本酒は日本文化で生まれ育ってきた、ワインも日本のワイン文化として育てっほしい、と熱い。
確かに今や、ANAファーストクラスに選ばれているワインの中に、“甲州ワイン”が選ばれている、まさに世界に通用するワインが日本でも作られているということだ。世界ワインの分布もヨーロッパからアジアに、これからは変わるかもしれない。
そしてネッドが日本のワイン文化の根底を変えるかもしれないと、僕は感じた。
インタビューを終え雑談をしていると、ネッドのご子息がきた、これから食事をしに行くという、フェースは完全な普通のパパに戻っていた。
ネッドに日本でのワイン文化をサポートしてほしいという願いは、僕だけではない。
僕は絶対のワイン音痴、ワインの知識はゼロ、ワインもグラス一杯がせいぜいだ。しかしネッドと会話していると何故かワインが欲しくなる。
企画・取材・nagasawamagazine・永澤洋二
フォトグラファー・五頭 輝樹